発表会に登壇したリクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の古野庸一氏によると、企業における働きがいの向上は、「仕事のデザイン」がメインだとされていた。1970年代ごろから人材マネジメントにおいて「ハックマン&オルダムモデル」と呼ばれる理論が提唱され、仕事の有意義性や自律性などから働きがいを向上させる施策が目立っていた。
しかし、効率性が重視されるようになるとともに、企業におけるコミュニケーションは希薄化している。リクルートマネジメントソリューションズが19年に行った調査によれば、5年前と比べて職場での人間関係の希薄化を感じている人は全体の44.6%にものぼる。また、85.1%の人がサポートを必要としているが、そのうち十分にサポートを得られていると答えた割合は58.4%にとどまる。
こうした背景から、発表会ではコミュニケーションの重要性が繰り返し強調された。厚生労働省が14年に発表した「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」においても、このような傾向が明らかになっている。「評価結果とその理由の本人へのフィードバックと説明」「従業員の意見の会社の経営企画への反映」「朝礼や社員全体会議を通じた会社のビジョンの共有」など、コミュニケーションに関する施策を実施している企業において、働きがいに対して肯定的に答えた人の割合が高かった。
古野氏によると、働きがいの向上に成功した企業は、株価も上昇する傾向にあるという。古野氏は、19年の調査においてベストカンパニーにランクインした企業のうち、過去5年間の株価データを入手できる企業を13社リストアップ。14年3月末に各社に同じ金額を投資した場合の5年後(19年3月末)におけるリターンを、東証株価指数(TOPIX)、日経平均と比較した。
その結果、TOPIXが32.3%、日経平均が43.0%のリターンだったのに対し、「働きがいのある会社ポートフォリオ」は128.3%のリターンとなった。年率換算すると17.9%で、投資額はおよそ2.3倍にまで増えた計算になる。
「こうした分析は毎年行っているが、毎年同じような結果になっている」と古野氏は話す。このように、単に「時短」だけの改革ではなく、コミュニケーションを重視して「やりがい」面にまで手を伸ばすことができれば、働き方改革は会社全体の利益にもつながる。今後は効率性だけを追求するのではなく、「なぜ、改革を行うのか」に立ち返った態度が企業には求められそうだ。
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