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『ろくでなしBLUES』作者・森田まさのりが明かす「人を笑わせる仕事哲学」森田まさのりの肖像【前編】(3/4 ページ)

» 2019年11月09日 03時10分 公開
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ルミネの舞台に立ったときが人生最高の瞬間

――『べしゃり暮らし』の中でも、やはり一歩引いて見る読者のことを意識しながら描いているのでしょうか。

 意識して描きますね。読者が心の底から笑えるようなネタが描けたらいいのですが、なかなかそれは難しい作業です。一流芸人さんのネタだって、紙に起こしたものを読んでそのまま笑えるかって言ったらなかなかそうはいかないですよね。しゃべりのテンポであったり、間であったり、声の張り方とか、アクションとか、そういう技術的なところで観客を笑わせている部分も大きいわけです。

 それを漫画の中で僕が描いて、読者を笑わせないといけないんですよね。なかなかに恥ずかしく、そして非常に難しい作業です。

――森田さんはこれまで『べしゃり暮らし』の制作を通じて吉本興業の養成所や芸人さんへの取材を重ねてきましたし、「M-1グランプリ」に出場するなどお笑いの活動もしています。紙の中の漫才やお笑いと、実際にやられるお笑いはどう違いますか。

 ネタ的には、自分の中で面白いと思うネタをどちらも描いているので、そこは紙も現実もそんなに変わらないと思います。ただ、自分でお笑いを演じるとなると、やっぱり僕自身の芸人さんへの憧れというものがありますから、違ったものになりますね。

 実は、僕が今まで人生で一番楽しかったことを振り返ると、去年の M-1の3回戦、ルミネの舞台に立ったときなんですよ。あのときが、これまでの人生の中で一番楽しかったり盛り上がったりした瞬間だと自覚しています。

phot M-1の3回戦、ルミネの舞台に立った時が人生最高の瞬間だったと言い切った

――漫画家としてデビューした瞬間などではないんですね。

 漫画よりも全然、去年の「M-1」3回戦のときでしたね。僕らのネタは最初、「どうも(漫画『ONE PIECE(ワンピース)』作者の)尾田栄一郎です」から始まるんですけど、1回戦2回戦ではそれがウケていました。でもそれは一見のお客さんが少なくて、僕のファンが結構来場していたからなんですね。

 でもルミネまで勝ち進むと、僕のファンは一切いません。しかも漫画にはそれほど詳しくない、お笑いのファンばかりだったので、「どうも尾田栄一郎です」ではウケないんですよ。本当に僕が尾田栄一郎という人なんだと思われたらしいんです。

 それで、最初の掴みがダメだったんですけど、ネタがしばらく進んでいくと『ROOKIES』のドラマの話になりました。その中で「あれ再放送できひんねん!」っていうネタがあるんです。その瞬間「どっ」とお客さんに笑ってもらえたんです。

 音楽に例えると、笑いが層になって無数の和音が自分たちを包むように押し寄せてくる、と表現すればいいでしょうか。それを身体で浴びたときが一番気持ち良かったです。

――漫画ではよくある逆転劇かもしれませんが、現実に「ダメだっ」て思ったところから形勢逆転できたわけですね。

 今までの練習や1回戦2回戦のときは「どうも尾田栄一郎です」でもウケていたんです。周りが僕のことを知っている人ばかりだったので。でもルミネで僕を知らない人の中でやったときはウケなかった。だから僕らのネタは「うわーだめなんだ」と痛感したんです。でもその矢先に、ほんとにみんなが知っている『ROOKIES』のドラマの話をしたら「どっ」と受けて。やっぱりドラマで放映されることってすごいことなんだなと思いましたね。

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phot 来場者一人一人のサインに丁寧に応じていた
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