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『ろくでなしBLUES』作者・森田まさのりが明かす「人を笑わせる仕事哲学」森田まさのりの肖像【前編】(2/4 ページ)

» 2019年11月09日 03時10分 公開
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主人公には自分の憧れを投影している

――森田さんの作品を見ても、『ろくでなしBLUES』の主人公である前田太尊も『べしゃり暮らし』の上妻圭右もそうだと思いますけど、ただの「あはは」という笑いではなく、どこか人の生き方や生き様が反映されているように感じます。物語のキャラクターを作る際に何を意識しているのでしょうか。

 あまり意識したことはないんですけど、主人公にはやっぱり自分の憧れを投影している部分がありますね。前田太尊にしても『ROOKIES』主人公の川藤幸一にしても、『べしゃり暮らし』の圭右にしても、絶対自分の中にないものですし、ある種「こうなりたい」というところがありますね。

――自分の中にないものを漫画に投影しているということでしょうか。

 そうですね。絶対自分の中にはないものですね。自分の性格を分析すると、やっぱり結構いい加減だし、気が小さいし、人の話は聞かないし。割と自分勝手だし、そこまで友達のことを思いやれるかといわれると、できるとは思えません。ですが、漫画のキャラでは、やっぱりそういうことを描けますからね。

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――『べしゃり暮らし』は一生描き続ける作品だと以前、発言していましたが、やはり森田さんの中で「お笑い」が一生のテーマなのだと受け止めているのですか。

 先ほども言いましたけど、僕の中では芸人さんこそが一番尊敬する職業だし、人を笑かすというのは一番人を幸せにできることだと思うんですよね。もちろんそんな芸人さんにだって、自分の中にいろんな苦労であったり悩みだったりというものがあるはずなんです。そういう状況をいったん脇に置いたとしても、人を笑わせるって本当にすごいことだと思うんです。

 僕はそういったドラマを『べしゃり暮らし』の中で描いてきたつもりですが、漫画の中でそれを描くのって実は結構、恥ずかしい作業なんです。何が恥ずかしいって、漫画の中で漫才のお笑いのネタを書いて、それを観た客の笑い声を描くのがとても恥ずかしいんですよ。

――恥ずかしい、というのはどういうことなんでしょうか。

 笑うのは普通の漫画でいったら読者の役目なんですけど、その漫画の中では登場人物がネタで笑うわけじゃないですか。つまり読者からしてみたら、漫画のネタで笑う観客を見てそれが面白いかどうか、と一歩引いて見ちゃうわけです。なので読者にとって、それは大抵面白くないんですよ。「それを面白いと思って作者が描いているんだ」というふうに読者が読んじゃうわけなんですね。

 だからお笑いの漫画って描くのが難しいとされてきました。そういうことを平気でやれる人ってなかなかいないと思うんですけど、僕はもう開き直ってこれが面白いシーンとして描いてしまっています。

phot 森田さんは時折、笑顔で話すときとは対照的な厳しい表情になる。一言一言、言葉を選びながら思いを語っていた
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