堀江: いま、AI診断みたいなものが少しずつ普及しています。胃カメラのAI診断の会社を取材したことがあって。
ハヤカワ: 胃カメラのAI診断は全然知らないですね。
堀江: 胃カメラで「これはピロリ菌に感染している胃です」とか、「これは早期の胃がんです」といったサンプルを見せられても、素人は全然分かりません。だから熟練した内視鏡医でないと見つからない。たぶん1割くらいは見逃していると思います。
ハヤカワ: 見落としも多いのですね。
堀江: それが、AIは90数%の確率で「この辺が胃がんかも」と知らせてくれるんですよ。
ハヤカワ: すごいですね。
堀江: まだ普及はしていないですよ。でも最先端では、それぐらいのことまではできます。ピロリ菌に感染していても、大人になって除菌しても、胃がんになるリスクはかなり下げられるようになりました。だから僕は予防するには恐怖を煽った方がいいと思いますけどね。
ハヤカワ: 私の周りで子宮頸がんと診断されて円すい切除(子宮頸部の組織を円すい状に切る手術)している人の数を見ていると、恐怖を感じてもいいレベルだと思います。がん化していない、もしくはがん化していても切除したくらいだと、カミングアウトする人は少ないです。だから潜在的にがんになったり、なりかけていることに気付いていない人は多そうですね。
堀江: カミングアウトしないですよね。デリケートな問題だからカミングアウトしづらい。子宮頸がんサバイバーの人は表に出てくれないです。なかなか難しいですね。
ハヤカワ: だからこそ、やっぱり危機感が薄いのかなと思いますね。
堀江: おそらくリテラシーの問題で、いくら説明しても分からない人はずっと分からないので、「これは予防接種なので受けてください」と言わないとだめだと思いますね。
堀江: この活動を通じてHPVに対する知見を深めていって、僕もHPVの9価ワクチン(日本では未承認)というのを打ちました。それで思ったのは、まだまだ研究途上にある話だけども、実は男性もHPV由来のがんになっています。
ハヤカワ: 男性もHPVを持っている可能性があるということですか。
堀江: 男性を検査したデータはそろっていませんが、女性では50歳までに8割の女性が1度は感染すると言われています。
ハヤカワ: それががん化するのは知らなかったです。
堀江: 男性の場合は陰部が露出しているので、がんになりにくいんですよ。陰茎がんはマイナーながんですので。HPV由来の陰茎がんもありますが、なかなかなりづらいです。
ハヤカワ: 顕在化しづらいのですか。
堀江: 毎日きれいに洗っているから。女性の場合は洗いにくいじゃないですか。子宮頸部まで洗うのはなかなか難しい。女性の場合は(性器の内部が)外に露出しているし、異物が入ってくるので感染しやすいことに加えて、ウイルスが排除されにくい環境にあります。
男女共通でかかる可能性があるとしたら、中咽頭がん(喉のがん)ですね。中咽頭がんはHPV由来である可能性が非常に高いと言われています。
ハヤカワ: オーラルセックスでうつるということですか。
堀江: オーラルセックスでうつる可能性が高くて、少なくない数の人たちが亡くなっているそうです。
ハヤカワ: 知らなかった。
堀江: 中咽頭がんの6割程度がHPV由来というデータもあります。これは予防医療普及協会のドクターから聞いた話ですが、50症例以上の口腔内洗浄廃液(うがい液)を回収して、次世代シークエンサー解析を行うと、ヒトゲノムだけでなく、HPVゲノムも解析できるのですが、なんと外来受診患者の20%程がHPV陽性だったと言ってました。
ハヤカワ: すごいですね。
堀江: つまり、男性もかなりHPVを飼っている。
ハヤカワ: 飼っているし、さらにそれを誰かにうつす可能性もありますね。
堀江: 悪性度の低い手足にできるイボや、性感染症の陰茎にできる尖圭コンジローマというイボとかも、HPVだったりします。がん化しないHPVもいっぱいあって、みんな持っているんですよ。
ハヤカワ: 知らないだけですね。
堀江: だから僕は男性もワクチンを打った方がいいと思っています。ワクチンに感染するシチェーションが減っていけば減っていくほど、ワクチンを打たなくても予防効果がでてきます。これを集団予防効果と言います。男性が打っても非常に効果があると思いますよ。男性の咽頭がんも予防できるし、マイナーな陰茎がんなどももちろん予防できて、女性に感染はさせない。自分が感染源にならない。
ハヤカワ: 感染しない、感染させない。感染源にならない。
堀江: 思春期に男性も定期接種を始めた国が、何カ国かあります。日本は男性に接種するなんて議論は1ミリもないので、周回遅れどころの話ではありません。
ハヤカワ: その前の前の段階ですね。
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