〈(トウ小平に)「日本はいまだに戦略的な思考はしません。」〉(A)
・彼(キッシンジャー)にとっては日本の外交官は「概念的な思考が不得手」で「けちなソニーのセールスマン」であった(B)
出典:(A)ウィリアム・バー編『キッシンジャー最高機密会話録』(毎日新聞社、1999年)
(B)マイケル シャラー著『「日米関係」とは何だったのか』(草思社、2004年)
解説
キッシンジャーはニクソン政権およびフォード政権期の国家安全保障問題担当大統領補佐官、国務長官を経験し、米国外交に最も影響を与えてきた人物である。
キッシンジャーは中国の周恩来首相とは波長が合った様で、極めて濃密な会談を行っている。その会談録の1つが『キッシンジャー最高機密会話録』(毎日新聞社、1999年)であり、(A)の発言を含んでいる。
『周恩来 キッシンジャー 機密会談録』(岩波書店、2004年)も同様の会談録を収録しており、ここには1971年10月22日、第4回周恩来・キッシンジャー会談が記載され、キッシンジャーは」周恩来に次のように述べている。
「日本の視点は偏狭です」
「日本人は、ほかの人々の態度に対する感受性が鋭敏ではありません」
キシンジャーは内部の会議では日本に対しもっと厳しい表現を使っており、それが前出(B)の発言である。著者マイケル・シャラーはアリゾナ大学歴史学部教授である。
キッシンジャーが日本に対し厳しい見方をしている背景には、「日本に対する私的な恨み」もある。
佐藤栄作首相は、キッシンジャーが仲介した佐藤首相・ニクソン大統領間の「核と繊維の密約」について「密約は存在しない」として無視した。また田中角栄首相はキッシンジャーの依頼を無視して日中国交回復を行ったため、キッシンジャーが激怒した、という経緯があるからだ(キッシンジャーの「対日私恨」については孫崎享著『戦後史の正体』〈創元社、2012年〉を参照)。
・日本企業はオペレーション効率において先行していた。だがベスト・プラクティスは、早晩ライバルに模倣されてしまう。
〈継続的改善の積み重ねは、戦略ではない。競合他社の模倣や同じ手法を少し上手に行うことも、戦略とは呼べない…(中略)…戦略の欠如がもたらす危険性は、(日本の)いくつかの代表的な産業事例によって鮮明に例証されている〉
出典:マイケル・E・ポーター著『日本の競争戦略』(ダイヤモンド社、2000年)
解説
ハーバード大学教授のポーターは1980年に『競争の戦略』(ダイヤモンド社、1982年)を出版し、企業戦略の第一人者の地位を確立した。彼は、この本の中で、企業戦略策定のプロセスを次のように記載している。
「A 企業がいまやりつつあるものは何か。
1.明示的か暗示的かを問わず、現在の戦略は何か。
2.戦略の基礎になっている仮説は何か。
B 企業環境に今何が起こりつつあるか。
1.業界分析:競争に成功する中心的要因及び業界での好機と脅威の主要なものは何か。
2.競争業者分析:既存及び今後予想される競争業者の能力と欠点。業界の今後の動向は何か。
3.社会分析:政府、社会、政治のどんな重要要因が好機或(ある)いは脅威をもたらすか。
4. 自社の長所と短所:競争業界分析の結果、現在及び将来の競争業者と対比した場合の、自社の長所と短所は何か。
C 企業は今後何をしなければならないか。
1.仮説(現在の戦略の基礎になっている情勢判断)と戦略の点検。
2.どんな戦略がありうるか。
3.ベスト戦略の選択」
日本企業のなかで、ポーター教授の提示する「戦略策定プロセス」を経て「戦略」を検討している企業は、果たしてどれくらいあるだろうか。
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