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日本式経営に“戦略”は存在するのか?――海外の眼が解き明かす「真の日本人像」「戦術」に秀でても「戦略」で劣る日本人(4/5 ページ)

» 2019年12月02日 07時00分 公開
[孫崎享ITmedia]

「未知領域の地図」を描けない日本の官僚

 〈(1990年代には)どの本も、日本はこのまま行けばおそらく2010年前後には、世界のトップの経済大国たる米国の地位を脅かすことになるだろう、と書いていた〉

 〈私は何を見逃していたのか。答えは簡単だ。日本の官僚は、…(中略)…イノベーションという未知の領域の地図を描く術は知らなかった。〉

 出典:デービッド・サンガー著「失われた二〇年からの脱出」

(マッキンゼー・アンド・カンパニー編『日本の未来について話そう』小学館、2011年)

 解説

 デビット・サンガーは1960年生まれのニューヨーク・タイムズ社記者。サンガーは米国人記者にとって最大の栄誉であるピューリッツァー賞を2度受賞した優秀な記者で、1992年から94年にかけて、支局長として東京に滞在した。1995年には日米自動車交渉における「CIAの盗聴」をスクープしている。

 彼は、前掲論評で日本が何故(なぜ)競争力を失ったかを分析している。東京支局長当時を振り返って、「意気消沈した米国人やヨーロッパ人向けに、日本現象を解説した本も出た。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』『日本/権力構造の謎』『日米逆転│成功と衰退の軌跡』。どの本も、日本はこのまま行けばおそらく2010年前後には、世界のトップの経済大国たる米国の地位を脅かすことになるだろう、と書いていた」と述懐する。しかしこれらの予言は的中せず、日本は停滞の道を進む。

 サンガーは「何故(なぜ)日本が停滞の道を歩んだのか」を考察する。

 当時サンガーが通産省を訪問すると、通産官僚は得意げに日本の自動車産業が世界にどう展開しているかを、地図で示した。しかし、「日本の官僚は、イノベーションという未知の領域の地図を描く術は知らなかった」ことに彼は気付く。

 日本人は地図が与えられた時、上手に歩む。自動車産業には生産する「自動車」のモデルがある。ソニーが独創性を発揮した時期があったが、1990年代および二一世紀に入って世界が急激なイノベーションの時代に入った今、日本発の製品はほとんどない。

世界のジョークが皮肉る日本人

 〈豪華客船が沈みだした。船長は乗客に脱出して海に飛び込むように指示した。

 アメリカ人には“飛び込めば貴方(あなた)は英雄ですよ”

 ドイツ人には“飛び込むのがこの船の規則です”

 イタリア人には“飛び込めば女性にもてますよ”

 フランス人には“飛び込まないでください”

 日本人には“みんな飛び込んでいますよ”〉

 出典:早坂隆著『世界の日本人ジョーク集』(中央公論新社、2004年)

 解説

 西欧の伝統を引き継いでいる社会ではジョークは重要な役割を果たしている。ジョークの内容には、弱者の強者に対するささやかな抵抗が表れている場合が多い。

 世界的に著名なジョークは、1960年代ソ連の権力者であったフルシチョフについての次のジョークであろう。

 「ある男が赤の広場の塀に『フルシチョフはバカだ』と落書きした。この男は逮捕され、懲役11年を言い渡された。『俺の罪は何だ』と男が叫ぶと、裁判官は『1年は国の財産である壁を汚したため。残り10年は国家機密漏洩(ろうえい)罪だ』と答えた」

 経済分野で勢力を持つ民族への反発が、ジョークの形をとっている場合も多い。最も多いのは経済力を持ち、いばっているイメージが流布する、ユダヤ人に対するジョークであろう。日本人も、1970年代、80年代と日本が経済力を増すにつれ、ジョークの対象となった。

 ジョークが広く流通するためには、人々の認識と一致している必要がある。日本人については「付和雷同」「自主性の欠如」が標的となる。

 別のジョークを見てみよう。

 「ある時、大型客船が沈没し、それぞれ男二人と女一人という組み合わせで、各国の人が無人島へと流れ着いた。それからその島ではいったい何が起こっただろうか。

 イタリア人:男2人が女を巡って争い続けた。…(中略)…

 フランス人:女は男1人と結婚し、もう1人の男と浮気した。…(中略)…

 日本人:男2人は女をどう扱ったらよいか、トウキョウの本社に携帯電話で聞いた」

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