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日本式経営に“戦略”は存在するのか?――海外の眼が解き明かす「真の日本人像」「戦術」に秀でても「戦略」で劣る日本人(5/5 ページ)

» 2019年12月02日 07時00分 公開
[孫崎享ITmedia]
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番外編: 日本人の戦略の一例(山縣有朋)

 〈国家独立自衛の道二つあり。一に日く主権線を守禦し他人の侵害を容れず、二に日く利益線を防護す自己の形勝を失はず〉

 〈利益線を防護すること能はざるの国は其主権線を退守せんとするも、亦他国の援助に倚り纔かに侵害を免るる者にして、仍完全なる独立の邦国たることを望む可らざるなり〉

 出典:山縣有朋著「外交政略論」(大山梓編『山縣有朋意見書』(原書房、1966年)

 解説

 山縣有朋は1873年に初代の陸軍卿となり、明治政府においては「国軍の父」とか、「日本軍閥の祖」と称された人物である。彼の軍思想はさまざまな形に変遷するが、次第に攻撃的な色彩を強め、「外交政略論」(明治23年)で明確化する。特徴は「利益線」の防護にある。

 彼は次の様な主張を行う。

 まず、彼は国の防衛において、「主権線」と「利益線」という二つの概念を提示する。

 「主権線」というのは、国家の主権の及ぶ地域のことである。これを守るのは当然だ。彼は、「日本は毅然と国家を守る姿勢を取っているので、どこかの国が日本の領土を奪うとは考えていない、という点には疑念がない」としている。

 その上で、隣国との接触の勢いが、わが主権線の安全、危機と緊密に関係するとして「利益線」という考えを提示する(当初は朝鮮をさす概念だった)。

 そして、「今、世界の強国の中にあって、日本が国家の独立を維持しようとすれば、主権線を守るだけでは不十分で、利益線を守る必要がある」として、もし外国が日本の「利益線」に害を与えようとするならば、「強力を用いて我が意志を達する」ことを主張した。

 従って、利益線を先(ま)ず朝鮮に求め、更に満州、中国本土と次第に拡大するという、軍事・外交戦略が山縣有朋の戦略となった。

 ただ、この軍事戦略には重大な欠陥がある。日本国外に利益線を持つのであるから、当然対象国内部の抵抗が起こる。さらに、対象国に進出しようとしている列強との衝突が起こる。結局は中国との軍事衝突、さらには日米開戦へと進み、敗北を迎えることになる戦略であった。

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