―― 「医療事務に適性がある人」を判定する仕組みは、どのように開発したのですか。
菊池: 入社試験でよく使われている適性検査の項目を独自に活用して「医療事務の仕事を辞めにくい人」、いいかえれば、「当社の社風や医療事務の仕事にマッチしている人」を洗い出せないか、と考えました。
そこで、適性の特徴に関するカバー範囲が「7分類 23要素」と広いIBMのタレントマネジメントシステム、「IBM Kenexa」を使って「辞めにくい人」の特徴を可視化することにしたのです。適性の項目に、当社の業務に必要とされる要素(協調性、情動性、エネルギー、外向性、経験への開放性、組織など)が含まれていたのも選定理由の1つでした。
適性に合った属性を可視化するために、まず既存の社員にIBM Kenexaによる適性検査を受けてもらいました。属性データを集め、その後、半年くらい経過を観察したところ、短期で辞める人と、働き続ける人との属性の違いが見えてきたのです。
ただ、当社の場合、適性検査の要素として挙がっている項目の点数を知りたいわけではなく、「短期離職の可能性を示す確率」や、「入院受付適職確率」「外来算定適職確率」といった業務適性の指標を出したかったので、「多変量解析」を使って独自の統計モデルを作りました。
それを導き出すためには、個々の項目を見るだけでは不十分なので、当社の場合には、「辞めない潜在的な因子」をベースモデルとして作って、それに対して「どういう要素を掛け合わせると求める結論になるのか」を考えて設計しています。
こうしてできたモデルで一定の検証を行い、適性検査を通じた予測精度と再現性が一定レベルに達していることが確認できたので、採用の基準として使い始めました。
―― 適性検査は採用のどのフェーズで活用しているのですか。
菊池: 当社の求人に応募する人がWebを通じて適性検査を受けられるようにしています。現状、合否に関わる判定基準として使っているのは、短期離職確率のみで、受けたその場で結果が分かるようリアルタイム処理を行っています。現状では、短期離職確率が一定の数値を越えたところを閾値(しきいち)にしているので、それを超えた人は属性が合わないということで採用を見送っています。
―― この取り組みによって、短期の離職者はどのくらい減ったのでしょうか。
菊池: 短期の離職率は確実に下がっていますが、ほかにもさまざまな取り組みをしているので、どこまでがこの施策による効果なのかは判断が難しいところです。
ただ、どうしても人手が足りなくて短期離職確率が閾値を超える人に入社していただくケースもあるのですが、このようにイレギュラーな形で入社した人と、ノーマル(短期離職予測で低い数値が出た人)で入社した人とを比べると、離職率に3倍近くの差があるので、この取り組みは機能していると考えています。
―― 会社の経営状況や仕事を取り巻く環境が変わっていくと、短期間で離職する人の傾向も変わってくるのではないでしょうか。
菊池: 会社の成長や、会社を取り巻く環境の変化に応じて辞める理由も変わってきますから、このモデルは一定期間ごとにアップデートしています。辞めやすい人のペルソナ像も、実はこの取り組みを始めた当初からは変わってきているんです。
―― そこが「人工知能(AI)ではなく、統計モデルで開発した理由」なのでしょうか。
菊池: その通りです。実は当初は、AIでモデルを設計しようと思っていたんです。ただ、AIだと教師データをインプットすると自動で学習してしまうので、プロセスがブラックボックス化してしまうんです。この「仕事に対する適性」という指標については、会社の経営状況や職場環境の変化に応じて、自分たちでコントロールしながら使いたかったので、あえてAIではなくて統計モデルにしたのです。
ツールを選定する上では、「何でもかんでもAIを使う」のではなく、目的とプロセスをきちんと考えて判断することが重要です。AIなり統計モデルなりがはじき出した結果を本当に活用すべきかどうか、オペレーションに載せるべきかどうか――といった目利きを、社内で主体性を持って行うつもりなら、手段も精査した上で選んだ方がいいと思いますね。
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