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面談のコメントから「辞めそうな人」がここまで分かる――「短期離職者に悩む会社」の人材流出を止めたAIの力(4/5 ページ)

» 2019年12月23日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

AIで「辞めそうな人」を予測してみると

―― フリーコメントを分析することで、「辞める予兆」が分かるのではないかと考えたわけですね。なぜ、AIを使おうと思ったのですか。

菊池: 人間の勘や経験からでは見つけられない予兆を、AIなら発見できるのではないかと思ったのです。

 実は、「フリーコメント」の内容と「辞める人」の相関関係を分析してみると、コメントからは辞めると思えない人が辞めてしまうケースがあるんですね。例えば、フリーコメント欄に「この先の仕事が見えないのでやや不安があります」「資格の取得は、いつごろから準備すればいいか教えてください」と書いた人がいたんです。

 アンケートを見ても、体調は良好で職場の雰囲気にもなじんでいるし、業務に対する満足度も高い。しかも資格の取得に向けて前向きでポジティブなのだから、現場のメンターは「まさかこのスタッフが辞めるはずがない」と思っていたのですが、実際にはすぐ辞めてしまったのです。

 経験豊富なスーパーメンターなら、顔色や話しぶり、普段の仕事の状況を見た上でコメントの意図を読み取って退職を予測できたかもしれませんが、そこまでのスキルを持つ人はそう多くない。ここでITの力を借りて、何とかできないかと思ったわけです。

 選定にあたっては、さまざまなAIツールや統計ソフトを検証しました。その結果、「こんなコメントを残した人が辞める、辞めない」という予測と「実際の退職結果」とを照らし合わせたときに、その精度が最も高かったのが、FRONTEOのAI「KIBIT」だったのです。教師データには、「“面談を行ったが離職した人”が書いたフリーコメント」を使い、同じ特徴を持つ人を抽出しています。

 開発元によるとこのAIは、コメントの中に「ポジティブなものやネガティブなものが含まれているか」だけでなく、どのような文脈でそれぞれの表現が出てきているのか、どれくらいの強さで出ているのか――といったところまで分析できるのが特徴だそうです。人間の機微を学習することができるので、高い精度で判定できるのでしょう。

―― AIによる予測をどのように離職率の改善に生かしているのですか。

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菊池: 面談シートのフリーコメント欄をAIに読み込ませて、「辞める兆しがあるかどうか」を判定するのに使っています。

 ただ、本当に重要なのは、判定した後の対応なので、「辞める予兆あり」と判定された人には単なるメンタルケアだけではなく、配置転換や就業条件の変更も含め、働く上での障害を具体的に取り除くような対策をするよう、マネジャーには指導しています。

―― この取り組みは実際、どの程度の「離職率の改善」につながったのでしょうか。

菊池: AIが「辞めそうだと判定した人」について、「フォローしなかった場合」と「フォローした場合」とで6カ月間、経過を観察したところ、前者は離職率が40%、後者は20%でした。つまり、辞めそうな人でも、正しくフォローすることで離職率は下げられるということになります。また、AIが「辞めそうだと判定しなかった人」の離職率は17%でした。従ってAIは、辞めそうな人を正確に抽出できたと言えます。

―― AIが判定することについて、現場から懐疑的な反応はなかったのですか。

菊池: 当初はそういった反応もありましたが、実は「AIの判定」と「メンター歴が長い現場スタッフの見立て」が、かなり高い確率で一致していることが分かったんです。それを示すデータを現場スタッフに見せたところ、理解してもらえるようになりました。

 また、さきに挙げた「現場が辞めると思わなかった人」のコメントを読み込んだAIは「辞めそうな人」だと判定したんです。メンターが気付けない予兆をAIが見つけてくれて、自分たちは辞めないようにするためのフォローに集中できるのも、受け入れが進んだ理由の1つだと思います。

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