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もうけは悪、補助金漬け――そんな地方都市で実績上げる、サツドラ社長の戦略課題山積の地方こそ、グローバルで戦える(4/4 ページ)

» 2020年01月06日 08時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]
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変化を嫌う人への処方箋

小島: “外のものさし”を知らない弊害は、ビジネスの現場でも生じていますよね。作っている物や手法が未来永劫変わらなければ、その仕事にも変わらず価値があるかもしれませんが、市場が「もう、その仕事はいらない」となったとき、「私は“これが仕事だ”といわれて生きてきた。否定するのか、お前!」みたいな展開になりがちです。

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富山: 自分が今まで手掛けてきた仕事を守ろうとするんですよね。特に店舗は“箱”なので、ますますその傾向があるんです。

 僕はサツドラに入社して最初の仕事が倉庫整備だったのですが、いろいろと不要な物を捨てたりするとパートの方に「私がルールを作って回してきた仕事を奪うのか」と泣かれました。人ってそういうことで抵抗するんですね。

 でも、そこで学んだのが、人ってあんなに泣いたことでも、しばらくするとケロッとしてるんですよね。人は変化するときに抵抗するんだけど、変わってしまったら慣れるんだなって。

長谷川: 富山さんは、その後も続々と新規事業を立ち上げ、リードしているわけじゃないですか。さきほどのパートの方ではないけど、新しいことをしようとすると、「抵抗する人」や「懸念を示す人」が必ず出てきますよね。最終的にはそういう方々も巻き込んでプロジェクトをドライブするために、どんな工夫をしていますか?

富山: 急がば回れじゃないですが、こうしたいというモデルを見せるのは重要ですね。例えば、アメリカのチェーンストアの仕組みを持ち込もうとしたときに、どんなに説明しても、見たことがない人とは議論がかみ合わないんですよ。コンセンサスを得るのが難しい。でも見せちゃうと、「あ、そういうことなんですね」と納得する。

友岡: 僕らみたいな製造業では、8割の人は実際に見たものしか信じない。PowerPointで説明するより、プロダクトを作って見せちゃう方が話が速いんですよね。

長谷川: 友岡さんはそのへん、うまくやりますやん。

友岡: 激しく抵抗されるというのは、それだけ変化が大きいということなんです。みんなが歓迎する施策は“改善”で、“イノベーション”ではないんだよね。僕は、社内の半分の人が抵抗することは「結構いいことやってるな」と思う。8割の人が抵抗したら、「今かなりヤバいことやってるな」ってワクワクするよ。

近い将来、ドラッグストアで洗剤を買う人はいなくなる

長谷川: 次はどんな施策を考えているの?

富山: サツドラの次のコンセプトは、「ライフコンシェルジュ化構想」。生活にまつわる全ての窓口になることを目指しています。中でも今やりたいと思っているのが、スマホ教室。孫にLINEを送りたい、PayPayをダウンロードしたい、アカウントが作れない――そういった相談の全てが顧客接点となるんです。

 ここで重要なのは、お客さまとの交流を通じて、いかに信頼を積み上げるかということ。

小島: 信頼獲得に重きを置いているのは良いですね。顧客接点を作りたいというのはどの企業も考えていますが、その多くが、信頼より先に「売りたい」がきてしまっているんですよね。

富山: 落としどころが自社サービスである以上、顧客ファーストにはなりにくいですよ。ライフコンシェルジュは、ニュートラルであることが重要で、ゆえに信頼が発生し、信頼があるがゆえに創り出せるビジネスがあるわけです。

長谷川: でもなぜ今、信頼なの? サツドラだってスマホ教室より商品を売るほうが利益が出るじゃないですか。

富山: それは、今後は「お客さまの生活のどの部分を丸投げしていただくか」という戦いになると思っているからなんですよね。

長谷川: ほう、どういうこと?

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富山: 地方で人口減少が進めば、リアルな場所がどんどんなくなっていきます。銀行窓口がなくなる、役所がなくなる――それが当たり前に起こるわけです。でも、リアルな場所は必要で、サツドラがそれを一手に引き受けようと考えているんです。

長谷川: 信頼という点でいうと、地方銀行なんかが競合になってくるのかな?

富山: 地方銀行は、かろうじて残されている無形の信頼を価値に変えていくべきだと思うのですが、自分たちが金融機関だと思っている限りは変えられないです。例えば、「IDを全部預かって本人に代わって管理する」みたいなサービスを提供すればいいと思うんですけど、できないなら、その役割を僕らがやりたいんです。

長谷川: 富山さんのそこまでの熱意や危機感はどこから生まれてくるの?

富山: ドラッグストアって洗剤を売るじゃないですか。でも、近い将来、洗剤を買う行為がなくなるんじゃないかと思っています。なぜ洗剤を買うかというと、家で洗濯するからですよね。でも、洗濯を誰かに丸投げするようになれば、洗剤は買う必要がありません。

 もうあと20年後には、4割が単独世帯になるといわれています。洗濯をアウトソースしたいと思う世帯が増える可能性があるわけです。じゃあ、どこに頼もうかとなったときに、「サツドラだよね」といわれるくらい信頼される存在になっていたいんです。洗濯だけだと価格は下げにくいですが、生活全般を丸投げしてくれるなら下げやすい。そこが次の勝負所だと思っているんです。

一同: 面白いなぁ。

サツドラホールディングス 代表取締役社長 富山浩樹氏プロフィール

1976年札幌生まれ。札幌の大学を卒業後、日用品卸商社に入社。2007年、サッポロドラッグストアーに入社。営業本部長の傍ら2013年にリージョナルマーケティングを設立し、北海道共通ポイントカード「EZOCA」の事業をスタートする。2015年5月に代表取締役社長に就任。2016年8月にサツドラホールディングスを設立し代表取締役社長に就任。「地域をつなぎ、日本を未来へ」のコンセプトのもと、店舗や地域の資産を生かして新たな課題解決型ビジネスの創造を目指す。


フジテック CIO 友岡賢二氏プロフィール

1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。


日清食品HD CIO 喜多羅滋夫氏プロフィール

P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、2013年日清食品ホールディングスにCIOとして入社。グローバル化と標準化を軸に、グループ情報基盤の改革を推進中。


パラレルマーケター 小島英揮氏プロフィール

25年以上、ITのマーケティング業務に従事。2009年〜2016年、AWSの日本のマーケティングを統括。現在、オンライン決済やAI等複数のIT企業でのマーケティングを軸に、パラレルキャリアを実践中。


ロケスタ 代表取締役社長 長谷川秀樹氏プロフィール

1994年、アクセンチュアに入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebookなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進する。2011年、同社執行役員に就任。2013年、ハンズラボを創設し、代表取締役社長に就任(東急ハンズ執行役員を兼任)。初年度から任期中黒字経営を達成した。その後、メルカリ執行役員CIOを経て、2019年12月、プロフェッショナルCDOとして独立。日本のデジタル変革を加速させるため、24時間365日働く(働くと遊ぶを融合させる)所存。


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