クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2020年01月13日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]
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明確にハンドリングを変える3つのモード

 ステアリングは基本的に正確だ。舵(かじ)に対するリニアリティはあるところまでは高い。ただしそうはいってもAWD。何かの拍子にフロントのトラクションを使い切るとフロントのグリップが失われ、後ろが蹴る分プッシングアンダーステアで前へ押し出される。全体論としては、従来のAWDと比較すれば、その挙動変化はつかみやすく、普通にアクセルを緩めれば返ってくる。

 3つのAWDモードは、かなり明確にハンドリングを変える。移動手段としてクルマを使うシーンでは文句なくノーマルが気楽だ。トラクションによる挙動変化が少なく、アンダーステアが起きる前にハッキリと予兆を伝えてくるので、そこで馬鹿をやらない限り変なことは起きない。しかも限界もそこそこ高い。AWDのクセに慣れていないドライバーにも比較的安心できるセッティングだし、何よりも常に真剣にクルマに対峙(たいじ)することを求められ続けては、疲れてしまって出掛けるのが億劫(おっくう)になる。そういう意味でノーマルモードは良い落としどころだと思う。

 スポーツモードではリヤへのトルク配分を増やした結果FR的な挙動になる。アクセルオンでパワースライドを起こしたい時に使うモードだが、限界は一番低い。パワーがあるだけに、踏まずに我慢する時間が一番長い。いってみれば低次元エンターテインメントを意図的に演出したモードだ。変な言い方だが、これは限界を下げたところがひとつの見識だと思う。安全にドリフトごっこができるモードだ。

 トラックモードはその名の通り、クローズドコースで使うことが前提のモード。陸上でいうトラック競技のトラックだ。タイヤを使い切れるという意味では一番限界が高いが、切り返しの時の操舵(そうだ)タイミングの正確性を一番求められる。合わないとガツンと逆向きのGに襲われる。難しいという意味では一番難しい。

GRヤリスのシート

 インプレッションはこのくらいにして、続編ではこういうスポーツ性の高いモデルでトヨタは何を狙っているのかについて書いてみたい。トヨタは単純に「凄い性能のラリーカーを出してみたよ」なんてことをやる会社ではないのだ。(続編は明日掲載

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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