クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

日本のEVの未来を考える(後編) 池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2020年01月21日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]

ライフサイクルアセスメントの時代

 マツダが東京モーターショーで打ち出した、ライフサイクルアセスメント(LCA)時代のEVの考え方がある。従来走行時のみに注目してCO2排出量が比較されてきたが、ここへきて、欧州を発信源にLCAを訴求する声が増えている。生産から利用、最終的な廃棄までの全行程を通してのCO2排出量を考えるべきだという思想だ。LCAを考慮した場合、バッテリーの容量は35kWhあたりがベストであるとマツダは結論づけた。

 このままいくと、大容量バッテリーを搭載するEVにとっては、このLCAがなかなか厳しいことになりそうなのだ。バッテリーというのは生産も廃棄もCO2負荷が高く、LCAで見るとむしろハイブリッド(HV)の方が負荷が低いという試算すらある。トレンドの風向きは徐々に変わりつつある。

 ただこのあたりの計算根拠は必ずしも明確とは限らない。筆者は昨年九州大学で行われたLCAの学会発表を公聴してきたが、現時点では、バッテリーの生産負荷に関する基礎的なデータが極めて曖昧にしか出ないものだということが分かった。

 数値の根拠となるバッテリーの素材には、今ではもう使われない古い形式のものが含まれているなど、発表者がいろいろと言い訳しないとならない状況だったのだ。しかし、全体としてバッテリーの生産や廃棄についてのCO2負荷が加算されること自体はほぼ確定的だ。

 いままでゼロエミッションの名の元に、一切CO2を出さないというフィクションが採用されてきたので、LCAによってそれが是正されるのは正しい。その是正が足りないか行き過ぎになるかは、今のところまだ分からない。しかし、LCAへの注目と共に、基礎的なCO2負荷データの収集は今後急速に進み、やがてもっと明瞭な根拠で負荷が計算できるようになるだろう。となると、おそらく極端な大容量バッテリーに対する批判は避けられなくなると考えられ、やはり中容量バッテリーと充電能力向上の組み合わせにしか出口はなくなる。

LCAの考え方。国立環境研究所 循環・廃棄物のまめ知識「ライフサイクルアセスメント(LCA)」より

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