「モビリティの時代、これまでの自動車とは製品としての構造が大きく変わる」と吉田社長は話す。
自動車は複雑なハードウェアを、個々の機能パートごとにシンプルなソフトウェアが制御する構成だが、モビリティの時代は大きな能力を持つコンピュータが、モビリティ全体を統治する構造になっていく。そう考えているという。
「電気自動車はハードウェアが単純化する一方、メインとなるチップの能力が大きくなっていき、OSの上に各種要素をミドルウェアとして乗せていく構造になる」(吉田社長)
そうした中ではハードウェアよりもソフトウェアが重要になっていくため、多様なシステムと連動していけるよう、順応性の高いシステム開発をテーマとして目指している。それは将来のモビリティを統治するソフトウェアの枠組み、あるいはミドルウェアなど、さまざまなレイヤー、粒度でプラットフォームに食い込もうと考えているからだろう。
例えば、自動車産業において、部品メーカーは極めて大きな役割を果たしている。日本の場合は系列に組み込まれ、あまり事業の自由度は高くないが、ドイツの部品メーカーは独立性が高く、ボッシュやシェフラーといった力のあるメーカーは、積極的に中国などのEVベンチャーを支援し、将来のモビリティ時代に適応しようとしている。ソニーのコンセプトカーにも、こうしたドイツ系部品メーカーは深く関わっている。
ところが、これらのメーカーはパーツごとに開発を行っているため、吉田社長が予見しているように「シンプルハードに大きなSoC(System-on-a-chip)と複雑なソフト」という構造になっていくと、パーツを統治するシステムとどう調和させていくのかという問題が出てくる。
ソフトウェアとハードウェアの価値が逆転するとき、このイノベーションにどう対応するかで、モビリティ時代での立ち位置が変化していく。
当然、自動車メーカーはこの役割を担おうと開発をしてくるだろう。しかし、ソフトウェアプラットフォームならば、ハードウェアと切り離されていても十分に機能するはずだ。そこにはGoogleも、Appleも、サムスンも、参入の余地がある。
また、吉田社長が言うように、モビリティ時代への貢献、参画方法は多様だ。
例えば、モバイル時代を代表するアプリである、ライドシェアやタクシー配車といったコンポーネントを、どうモビリティのシステムに組み込んでいくのか。あるいは社会全体の環境適応性を考えたとき、どのようにスマートグリッドと接続していくのか。そして電気自動車を取り巻く動きの中で、どのように従来の事業を順応させていくのか。
これからの数年が、10年先の事業価値を大きく変える。そんな岐路に、われわれは立っているのかもしれない。
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