“車内快適性”だけじゃない――JR東海の開発者が明かす最新型新幹線「N700S」2つの「真の狙い」東京五輪直前に登場(3/3 ページ)

» 2020年01月23日 04時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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もう一つのN700Sの戦略 他社運用が容易な「標準車両」

 安全管理の面以外にも、N700Sの戦略はある。前出の福島課長はこう打ち明ける。

 「N700Sは新幹線の『標準車両』を目指して設計しました。これまでの16両だけでなく、12両や8両など、さまざまな編成に対応することが可能で、さまざまな線区で運用できるようになっています。これによりJRの他社さんでも運用が容易になるだけでなく、海外への展開を視野に入れたときにも、大きく変えることなく適応できるコンセプトで作っています」

 これまでのN700系やN700Aなど、JR東海の新幹線車両は16両編成というのが基本設計で、これをこのまま12両や8両などに変えることは不可能だった。N700Sでは新幹線の台車に「SiC(炭化ケイ素)」という次世代半導体素子を使用しており、これによってバッテリー自走システムや「標準車両」を実現させたと言っても過言ではない。

【訂正:2020年1月28日午前10時10分 初出で「新幹線の台車に「SiC(炭化ケイ素)」と記載しておりましたが、「台車」を「主変換装置」に訂正いたします】

 「SiCは高速鉄道では当社が初めてN700Sで実現したものです。これで車両下に備わっているさまざまな機器の小型軽量化や省エネを実現しました。これで旧来の16両編成に縛られない運用が可能になりました」(福島課長)

 新幹線は今や国内だけでなく、世界的な乗り物になっている。07年には台湾で新幹線が開業し、JR東海の車両が走行中だ。今後の計画としては、アメリカ(米国)のテキサス州でも同社の新幹線の輸出を見据えている。

phot 取材に応じるJR東海新幹線鉄道事業本部の上野雅之副本部長

 JR東海の新幹線鉄道事業本部・上野雅之副本部長も30日、記者団の前でこう話した。

 「N700Sは『標準車両』が最大の特徴と言えます。東海道では16両編成ですが、テキサスでは8両、台湾では12両編成になると思います。単純な比較はできませんけども、海外の展開に向けてしっかりした車両ができたと考えております」

 また、災害時の運用についても上野副本部長は狙いをこう話す。

 「架線が停電してもバッテリー自走システムで自力走行できる機能があるので、台風や地震といった自然災害に対応した機能の進化もさらに開発して参りたいと考えております」

phot 豊橋駅に停車するN700S

 1964年の東京オリンピックでは、開会に先立ち東海道新幹線が開業したことは、もはや教科書を通じて学んだ人も多い歴史的出来事だろう。20年の2度目の東京五輪ではこれほどのハード的進化はないものの、実はソフト面では前回に劣らない、世界戦略や安全面に革新をもたらすイノベーションが新幹線に起ころうとしている事実は、もっと多くの人に知ってもらいたいところだ。

phot 11号車には車椅子が置けるスペースが2つ設置されている
phot 運転席付近の様子
phot 試乗したN700Sの車体番号
phot 車外LEDライトも刷新されている
phot LEDの採用により省エネルギー化・照度向上・長寿命化を実現。先頭形状を生かし、前照灯を拡大することによって照射範囲を広げ、視認性向上を図っている
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