マーケティング・シンカ論

顧客行動の8割がいまだ謎、Amazon対抗目指すスマートストア「トライアル」の勝算長谷川秀樹の「仕掛け人に会いたい」(2/3 ページ)

» 2020年01月31日 17時52分 公開
[酒井真弓ITmedia]

AIを使わないなんて、死にに行くようなもの

 リアル店舗におけるデータの利活用は発展途上で、いまだ効果が分からない販促・マーケティング活動が多く存在している。トライアルはこの状況をどう変えようとしているのか。その仕掛け人とはどんな人物なのか。AIカメラやスマートカートを開発したトライアルグループ Retail AI 代表取締役社長 永田洋幸氏に話を聞いた。

ロケスタ 代表取締役社長 長谷川秀樹氏(左)、トライアルグループ Retail AI 代表取締役社長 永田洋幸氏(右)

長谷川 田川店を案内してくださった内山さん、彼は素晴らしいですね。生鮮食品のロス率、値引き率を下げるという課題に対し、「もともとの在庫コントロールが正しいのかを含め、テクノロジーで検証しながら解決していくのが本筋。値引きシールを小まめに貼ってどうにか売り切ろうというのはわれわれの目指すべきところじゃない」とおっしゃっていました。普通の店長経験者が言えることじゃないですよ。「テクノロジーで商売できるかよ」って声がまだまだ大きい業界ですから。

 最後、内山さんに「リテール企業に新卒入社して、よくここまで“テクノロジーで解決することは良いことだ”という発想ができますね」と伝えたところ、「僕はテック企業に入ったつもりですよ」と返してくれました。

永田 われわれはもともとIT企業で、1990年代には自分たちでPOSを作り、外販もしていました。テクノロジーでリテールを変えたいというビジョンのもと続けてきた会社なんです。だから今も、「AIを使わないなんて、死にに行くようなもの」みたいな価値観が強いですね。

長谷川 社内の人材育成方法にも興味が湧いてきますね。

永田 若手には、「バイヤーやストアマネジャーの必要性はいつまであるだろう。時代の流れでは、既存の仕事をなくそうとしていますからね。そうなったとき、データサイエンスが分かっていて、それを現場に生かせるような人材になっておきたいよね」という話をよくします。

 また、AI研究のトップランナーとして知られる東京大学 松尾豊教授の講座にもある「G検定(一般社団法人ディープラーニング協会が実施するディープラーニングを事業に生かすための知識を測る検定)」を取得するように働きかけています。彼らも自分の将来のことですから、まずはITパスポート試験の勉強から始めたり、統計学を学んだりと意欲的に取り組んでいますね。

長谷川 すごいですね! 普通はそんなことをいわれてもなかなか勉強なんてできないものです。どうすればその意識が社内に浸透するのでしょうか。

永田 やはり、テクノロジーで世の中が変わっていく現状を“腹落ち”させることです。社内に何十冊もある必読書を徹底的に読み込ませることで、考え方を共通言語として浸透させていきます。自分たちにとってAIの導入がいかに大事なのか、あえて誰かが言わなくても分かるようになりますね。

リアル店舗でもECサイトのようなOne to Oneマーケティングを展開

長谷川 内山さんはスマートストアの役割について「メーカーと消費者のマッチング」とおっしゃっていました。実際には、どんな取り組みをされてるんですか?

永田 トライアルの強みは、ビッグデータを持っていることです。何が、いつ、いくつ、いくらで売れたかというPOSデータに、ポイントカードのID情報を付加することによって、誰に売れたかまで追うことができます。これはメーカーにとって非常に有益な情報ですよね。

 例えば、お酒を飲まない人にいくらビールを勧めても効果はありません。でも、これまでに購入した商品をもとに本当に求められる商品やそのクーポンだけお勧めできれば、メーカー様、お客さま双方にとってメリットです。

 ビールを買わないお客さまには、炭酸水や健康ドリンクを勧めてみよう、いつも決まった銘柄のビールを買うお客さまには、2杯目として別の銘柄を勧めてみようといったように、リアル店舗でもECサイトのようなOne to Oneマーケティングが展開できるんです。

長谷川 「欲しがっていないお客さまには勧めない」というのはシンプルですが、メーカーにとっては、無駄な販促費用を抑えられますし、販促活動が正しい方向に展開されるようになりそうですね。

永田 これまでの店舗での販促効果は、メーカーにとってほとんどブラックボックスでした。トライアルは、ID−POSデータ等の顧客行動データを活用し、メーカー様と一緒に分析していきます。協力して“売れる棚”を作り上げ、さらにチャンスロスと欠品ロスをなくしていくという両輪の施策が、メーカー様にとって一番うれしいのではと考えています。

リテールの課題を解決するプラットフォーマーを目指す

長谷川 今後の出店戦略はどう考えていますか?

永田 スーパーもオーバーストア化(ある商圏に対して需要より供給が過剰な状態)が進行していて、出店したところで苦しい価格競争に巻き込まれるのが目に見えています。それよりは、培ったノウハウを生かし、他のリテール企業の課題を解決するプラットフォーマーを目指す方にかじを切っていますね。「自動車をつくる会社」から「モビリティサービスプラットフォームをつくる会社」になると宣言したトヨタさんが分かりやすい例ですよね。

 例えば、多くのリテール企業にとってCIOやそれに準ずる方は稀有(けう)な存在で、スマートストアのような攻めのIT投資が難しいんですよ。そもそも予算の管理構造が流通とITでは異なりますよね。ITばかりに投資できる状況ではないんです。そういったところで、「実績があるシステムを導入する」という近道を提示できるようにしたいんです。

 僕らの強みは、リアル店舗のオペレーションがいかに大変か身に染みて分かっていること。同じような痛みを味わってきたからこそ解決できる課題がたくさんあると思っています。

長谷川 それはめちゃくちゃ大きな強みですよね。

永田 AIカメラやスマートカートといったハードウェアはまねされると思っていますし、それは仕方のないことです。だからこそ、僕らは「リアル店舗のオペレーションに寄り添ってここまでできていて、もう追い付けない」ってところを見せていかないといけないですよね。

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