ERPの中核となるパッケージソフトには、最適な業務プロセス(ベストプラクティス)が定義されているにもかかわらず、それを全て無効にしてしまったのだ。ERPは極めて高額であり、導入には相応の投資が必要だが、こうした機能改変によって事実上、これらの投資は全てムダになってしまう。
組織内の承認や意思決定のスピードアップを目指してITを導入したものの、ハンコを捨てられず、印影が画像で表示できるようコストをかけてシステムを改変した企業も少なくないが、これも同じようなパターンだろう。当然のことながら、これでは業務の効率化は実現できず、IT投資の追加コスト分だけ利益が減ってしまう。
日本では外国から優れた概念や制度を導入しても、全て日本型に変えてしまい、そのメリットをまったく生かせないというケースが多く、これが日本社会のガラパゴス化を先鋭化させている。個人の貢献を明確化するための成果主義も、日本企業が導入すると、単なる社員の抑圧手段になってしまう。下手をするとビジネスチャットもかつてのERPと同じような結果に終わる可能性があり、その運用には十分な注意が必要だろう。
こうした事態を回避するためには、目的意識を明確にすることが重要である。なぜITを導入するのかという理由についてはっきり答えられないようではITを使いこなすことはできない。「業務の効率化」など曖昧な表現も御法度である。業務のどの部分をどう変えると、どれだけの効果があるのか定量的に把握できなければ、コストをかけてITを導入する意味はない。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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