初代テスラ・ロードスターのデビューは2008年、日産リーフは2010年、すでに新世代のEVが登場して10年以上が経過しようとしているにも関わらず、EVの販売価格は未だに庶民の手が届くものになっていない。その結果グローバルでのEVの普及率は、いまだに2%を越えてこない。
この連載ではすでにしつこいくらいに書いてきたように、バッテリーの価格低減と、急速充電器の爆発的普及を経ずして、EV社会はやって来ない(1月の記事参照)。それらEV普及の制約条件解消の目算が立っていないにも関わらず、闇雲に内燃機関の禁止期限を前倒しすることに意味があるのだろうか?
翻ってHVはすでに普及価格に達している。例えばトヨタ・アクアや日産ノート e-POWERは、車両価格200万円以下で、ホンダのフィット・ハイブリッドは210万円程度で購入できる。現実の路上でも普及し、CO2削減に多大な貢献を果たしている。新型フィットはまもなく発売というタイミングだが、先代同様環境に貢献するだろう。何より雄弁なのはトヨタの新車販売台数の4割がすでにHVであることだ。
これもすでに何度も書いているが、EVを1台もラインアップしていないトヨタは、世界のメーカーで唯一(EV専売メーカーを除いて)、欧州の温室効果ガス規制であるCAFE2020年規制をクリアできる見通しを発表している。この実績はほぼ100%HVによるものだ。
パリ協定が求める「2050年までにマイナス90%」というCO2削減のマイルストーンとして、30年の新車販売においてHVとPHVで450万台、EVで100万台(電動車合計550万台)を目標とするトヨタ。その後、計画を5年上回るペースで電動化が進んでいることを発表している(トヨタ資料より)
もし、本気でCO2削減に取り組む気があるのであれば、こうしたHVの普及に加えて、プラグインハイブリッドの価格低減に国を挙げて取り組むべきだ。
年間1万キロ走るユーザーにとって、日割りの平均走行距離は27.4キロに過ぎない。初代プリウスPHVのEV走行距離は26.4キロであり当時のバッテリーの容量はわずか4.4kWhに過ぎなかった。参考までに現在のEVは、最も容量の小さいバッテリーでも容量35kWh〜40kWhと、当時のプリウスPHVの10倍近いもので、それが価格高騰の原因になっている。どんなに性能が素晴らしくても、消費者の手に届かず、リアルな路上を走らない製品は環境問題の役に立たない。
- 水素に未来はあるのか?
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。
- 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- トヨタの電動化ゲームチェンジ
世間からはずっと「EV出遅れ」と言われてきたトヨタ。今回、電動化車両550万台達成を5年前倒して2025年とするとアナウンスした。そのために、従来のパナソニックに加え、中国のバッテリーメーカー、BYDおよびCATLとも提携した。さらに、用途限定の小規模EVを作り、サブスクリプションモデルを適用するというゲームチェンジをしてみせたの。
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