クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

暴走が止まらないヨーロッパ池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2020年02月10日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

バッテリーを小さくせよ

 あくまでも一例だが、仮にプラグインハイブリッドに5kWh以下のバッテリーを搭載し、一定の充電率でなければ始動できない仕組みを組み込んで、ユーザーが必ず充電してからでなければ使えないようにすれば、日常の使用距離はほぼEVとして使用可能だ。エンジンを稼働させるのは基本的に遠距離走行時のみとなる。初代プリウスPHVのデビュー以来、10年の技術進化を加味すれば、30キロ以上のEV航続距離は十分に狙えるはずだ。

 もちろん出先でバッテリーを使い切った時に始動できないと問題なので、CASEによる位置時間情報と組み合わせて、自宅で夜間に充電すべきをしていない場合を特定するなどの工夫が必要だが、できないことではないはずだ。不便だと思うかもしれないが、そもそもEVなら充電していなければ走れない。

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 間違ってはいけないのは、バッテリーを使い切って、HVモードになることは負けではないということだ。むしろ使い切れないバッテリーのせいで価格が上がることが負けなのである。「毎日ぴったり使い切り」こそが真の理想で、使い残すくらいならむしろ多少HVで走った方が良い。そういう需要がゼロになると、予定より早くガソリンスタンドがなくなってしまい、HVもPHVもインフラを喪失することになる。EVが庶民にも買える程度に価格低減が進む前に、その日がやってくるのはマズい。

 もちろん長い間には徐々にスタンドは減っていくだろうが、そうなった頃がEVへと本格シフトを考えるタイミングになるだろう。何しろほかに選択肢がなくなる。そして究極的にはガソリンスタンドの保護より、優先すべきは温暖化問題だからだ。

 こうした仕組みであれば、EVが目指すゼロエミッションの8割以上はPHVで簡単にクリアできるだろう。ジョンソン首相が掲げる、15年も20年も先の未来目標に対し、8割がたであれば、今すぐにでも改善できる可能性があるのにも関わらず、それを捨て置くのは罪ではないか? 「他の選択肢を全て切り捨てて、背水の陣で最良の成果を目指す」と言えば聞こえがいいが、いくらでも両立可能な可能性をわざわざ捨てる選択はマゾかバカに見える。いずれにせよ地に足がついていない。

 地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」とばかりにバッテリーをやみくもに肥大化させるよりも、容量を落として価格を下げ、普及させる方が重要なのは子供でも分かる話だと思う。

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