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「新型コロナ受けて急にテレワーク」が必ず失敗する理由――第一人者に聞く「耐え忍ぶ」だけではダメ(2/3 ページ)

» 2020年03月02日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

それでもあり得る、情報漏えいの盲点

 過度にセキュリティを保護してしまったテレワークのシステムは、在宅業務を確実にやりづらくする可能性を孕む。同時に比嘉教授が危惧するのが、「自社のシステムが使いづらいと感じた従業員が、個人で勝手に仕事のデータのやりとりを“工夫”し始めた際の情報漏えいリスク」だ。

photo 比嘉邦彦(ひが くにひこ)。東京工業大学環境・社会理工学院教授。イノベーション科学系・技術経営専門職学位課程所属。米国州立ジョージア工科大学管理学部情報技術管理学科助教授などを経て現職。専門分野はクラウドソーシングおよびテレワーク全般、支援ツール、E-コマースの分析に加えて地域活性化。日本テレワーク学会会長や高知県アウトソーシング検討委員会委員長などを歴任。日本テレワーク学会の特別顧問、日本テレワーク協会のアドバイザーを務める

 「テレワークで(データのやりとりなどが円滑に)できない状況を、個々人が勝手な判断で『できる』ようにするケースも出てくるのではないか。例えばネット上で無制限に会社の機密データのやりとりをし始めたら、ハッカーに狙われる可能性もある」(比嘉教授)。

 これらの背景にあるのは、社員に対する教育の甘さやシステムの不備など、あくまで平時にも存在していたセキュリティリスクだという。「そもそもセキュリティに問題のある企業がテレワークをやったらこうなる、というだけ。やはり、テレワーク自体が問題な訳ではない」(比嘉教授)。

 現場の従業員だけでなく、彼らをマネジメントする管理職側も戸惑う可能性が高い、と比嘉教授は推測する。「彼らの多くは『テレ(=遠隔)マネジメント』をやってきていないはず。急に部下が目の前から消えてしまったマネジャーに対するサポートを企業側は考えるべきだ」。

 例えば、テレワークにおける管理職向け指導でとある企業が行った有効例として比嘉教授が挙げるのが、「部下に対する『頑張れよ』メールの禁止」だとか。「部下が『仕事のこの部分で苦労している』などと連絡した時は、『具体的にこうしてくれ』といった指示を出すメールを徹底すべき」。対面ではできていたコミュニケーションが、文字だとできなくなる上司も少なくないためで、こうした地味なマネジメントの工夫もテレワークには必要になりそうだ。

「耐え忍ぶ」より次につながる「評価」を

 SNS上ではテレワーク体制の不備に対する不満や批判など、さまざまな議論が既に発生している今回の騒動。比嘉教授は「(今回の緊急)テレワークを企業も従業員も“耐え忍ぶ”のでなく、むしろ『実際にできたこと』『できなかったこと』を明らかにし、その原因について分析してほしい」と提言する。「今回、各企業が分析したテレワークの問題点を国がまとめ、ノウハウとして共有するといった試みがあれば、今後の推進に弾みをつけるチャンスになる」

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