7年ぶりに新作の半沢直樹 1月放送の「エピソードゼロ」からメガバンクの生存戦略を読み解くマイナス金利、脱日本的金融……(4/4 ページ)

» 2020年03月09日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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銀行が「つゆ払い役」に

 メガバンクの支店が存在しない地方都市の、昔風に言うなら「長者番付クラス」の優良企業オーナー社長がこんな話をしていました。

 「1年ほど前に、とあるメガバンクから電話でしつこく売り込みがあった。やけに熱心なので会ったところ、『メイン取引の邪魔はしません。もろもろ情報提供させていただきたいので1件だけお付き合いください』と言われ、タダみたいな金利で融資を契約しました。確かにその後の融資話は一切なかった。その代わり、銀行からの紹介だと言ってグループの証券会社や信託銀行が来て、『個人取引は企業のメインバンクと分けた方がいい』と、証券会社が地銀にないような運用商品を持ってきたり信託銀行が画期的な相続対策提案をしてきたりするので、個人のメイン取引はそちらに移りつつあります」

 銀行が“つゆ払い”役を務め、グループ企業が総力を上げて地方の優良企業オーナー取引の取り込みをはかるという流れは今やメガバンクグループの常識となりつつあります。つまり、地銀の重要な顧客を水面下で着々と取り込みはじめていると言っていいでしょう。グループ総力の結集は法人取引に関しても同様です。融資業務ばかりが収益源であったという過去と決別し、証券や信託の手法を駆使して、M&Aの仲介や資本市場での手数料収入を狙っていくというのが、国内業務におけるこれからのメガバンクの大きな方向性であると言えます。

「銀証分離」からグループ企業を総結集する流れへ(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

「銀証分離」はもうなくなった?

 そのような新時代の状況下で始まるドラマ「半沢直樹」ですが、前作は半沢が勤務する東京中央銀行からグループ内の証券会社東京セントラル証券への出向辞令を受け取ったところで終了。先の「エピソードゼロ」を見る限り、現在も半沢は出向先の営業企画部長という肩書で業務をしているようです。まさに、主人公はメガバンクグループ国内業務の要に勤務しているというわけです。

 つまり半沢のグループ証券会社営業企画部長というポジションは、単純にファイアウォール規制による「銀証分離」の壁に守られ親会社からは治外法権的存在であった7年前とは異なり、メガバンクグループメンバー企業として相互協力によるグループ収益最大化の一員として親会社の指示・管理下に置かれることになるわけです。メガバンクが生き残りを賭け、いかなるグループ戦略の下でどのような顧客戦略を展開し、また実態として親会社とグループ証券間にいかなるせめぎ合いが起きるのか、その辺りが春スタートの「半沢直樹」のみどころになるのではないかと思います。

 7年のブランクを経て今銀行界はいかに大きな変貌を余儀なくされ、また今後どのような未来像を描いていくのか。身近で遠い社会問題を、ドラマを通じて視聴者にどんな形で伝えてくれるのか。「半沢直樹」はストーリー展開の面白さと同時に、そんな点にも期待です。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。


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