10年で市場4倍! 飲兵衛こそ「ノンアル」に、注目すべき理由スピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2020年03月10日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本式のタバコ規制は敗北

 「吸う人も吸わない人も心地よい共存社会を」というJTの言葉が示すように、日本のタバコ規制では長いことレストランだろうが、喫茶店だろうが、電車だろうが、喫煙者と非喫煙者を「同席」させることにこだわってきた。非喫煙者が嫌がっているのは煙を吸い込むことなのだから、「ついたて」をして禁煙席と喫煙席を分けたり、喫煙ブースをつくって「分煙」をすりゃ問題ないじゃん、という考え方である。

 そこでJTをはじめとする国内関連企業は、空気の流れでカーテンをつくったり、煙の臭いを除去したりという技術を磨いて、海外にも売り込むことで「分煙」を世界に広めようとしたのである。

喫煙率の推移(出典:JT)

 しかし、残念ながらこの「日本式タバコ規制」が世界の主流になることはなかった。それどころかお膝元であるはずの日本国内でも、規制がはじまって劣勢に立たされていく。WHOが「受動喫煙の害は分煙で防げない」とバッサリやったからだ。

 世界の大きな流れに対して、「日本オリジナル」がいかに無力かということが分かっていただけたと思うが、次に疑問を感じるのは、なぜここまでワンサイドゲームになってしまうのかということだろう。世界に誇る高い技術もある。そこら中でプカプカ、ポイ捨ての国などと比べれば、喫煙者のマナーもしっかりしている。そんな日本の「分煙」が海外だけではなく、自国内でもボロ負けする事態になったのか。

 理由は明白で、「TOKYO2020」のせいだ。

 筆者は、記者をしていた時代からもうかれこれ20年近くタバコの規制をウォッチしてきた。かつては、タバコ増税を唱える政治家は、タバコ葉農家のみなさんを苦境に追いやる悪人だとボロカスに叩かれた。受動喫煙の害を唱える人たちは飲食店の経営や景気より、健康を優先するジコチューだと罵声を浴びた。「屋内禁煙」は日本経済のことをまったく考えていない非国民の思想だったのだ。

 その潮目がガラリと変わったのが、13年、東京五輪の招致が決定したときだった。

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