ご存じのように、SDGsとは、15年9月の国連サミットで全会一致で採択された、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための17の国際目標で、30年を年限としている。実はそのSDGsの保健分野に「アルコールの有害な摂取を防止する」という指標が含まれているのだ。
もちろん、国連の目標だからといって強制力はない。実際、公式に推進する立場を表明する国はそれほど多くないのだ。しかし、日本はこのSDGsに前のめりになってしまっている。外務省の「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」によれば、「SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会に示す」として、TOKYO2020などこれから予定されている国際イベントでも随時世界にSDGsの取り組みを共有・展開していくという。
それは裏を返せば、「アルコールの有害な摂取を防止する」ことでも日本は世界に範を示していくと宣言したことでもあるのだ。
人気俳優らが喉を鳴らしてビールを空けて、「ぷはー、うまい!」なんて言うCMがお茶の間にじゃんじゃん流れて、「せんべろ居酒屋」や、飲み放題メニューが夜の街にあふれ、そこかしこの店では、未成年じゃないですねボタンを押すだけでビールが買える。そんな「酒飲み天国」である今の日本が、飲酒規制が当たり前の国の手本になれるわけがない。
ということは、五輪のタバコ規制のときと同じく、30年へ向けて政府はジワジワと飲酒規制を進めていくしかないのである。
実際、その兆候はさまざまな形で現れている。SDGsが採択された翌月には、厚生労働省研究班がアルコールによる社会的損失は年間4兆円という調査を発表。17年には厚労省内のアルコール健康障害対策室を新設。健康への害だけではなくアルコール依存症や自殺誘発の危険性の啓発に力を入れ始めた。その甲斐あってか、「若者の酒離れ」は年々進行している。
そして、そんな「アルコール=有害」という国際的な潮流に対して、ビールメーカー側がカウンターとして打ち出したのがノンアルコールビールなのだ。これは「受動喫煙=有害」という国際的な潮流に対して、世界のタバコメーカーが、加熱式タバコという新機軸を打ち出したのとまったく同じ構造である。
例えば、ビール業界ナンバーワンのアサヒグループホールディングスは中期経営方針のなかで、SDGsにともなう社会課題「不適切な飲酒による健康被害等」を挙げて、以下のような2つのKPIを掲げている。
このように、SDGsが示唆するアルコール規制とノンアルコール市場の拡大は、片方だけでは成り立たないクルマの両輪のような関係になっている。「のんべえ」こそが注視すべきだというのは、これが理由だ。
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