過疎化、高齢化……地方金融の課題をどう解決するか Fintech協会理事の神田潤一氏インタビューフィンテックの今(4/4 ページ)

» 2020年03月25日 08時40分 公開
[中尚子ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

――保守的な地方の金融機関もありますが、フィンテックは受けいれられるのでしょうか。

神田 きっかけとなるのは“危機感”だと思います。今後、キャッシュレスが普及したり、銀行残高などがアプリで見られるようになったりすると、住んでいる地域に支店やATMがない金融機関でもユーザーは使うことができるようになります。また、親の世代からの相続などを機に預金が首都圏のメガバンクやネット銀行にシフトしてしまうという動きも拡大する可能性があります。その結果、ユーザーが地方から流出してしまう、という危機感が地域の金融機関でも急速に広がっています。

 既存の金融機関が提供するサービスが、ユーザーのニーズに合わなくなってきているという面もあります。今までは、金融機関が提供するほぼ一律のサービスをユーザーは受け入れてきました。しかし、Eコマースなどの異業種が金融事業に参入したりネット銀行のサービスが拡大したりすることで、ユーザーのニーズに迅速に応えるような金融機関が受け入れられる余地が拡大しています。

 フィンテック企業は、新しいサービスを作ったり機動的に動いたりすることが得意なので、既存の金融機関と協業することで、得意分野を補い合うWin-Winの関係を築くことができるでしょう。

――地域の金融機関の間でも対応が分かれそうですね。

神田 現在、金融機関が顧客の口座情報を顧客の同意に基づいてフィンテック企業に提供する「オープンAPI」の取り組みが進められていますが、これがひとつの転機になるでしょう。フィンテックとの連携を積極的に活用していくのか、流れに乗り遅れてユーザーに求められるサービスを提供できなくなってしまうのか。今後、3〜5年くらいで金融機関の優勝劣敗が進む可能性があるでしょう。

――地方でフィンテックを活用していくためにはどのようなことが求められるでしょうか。

神田 都市部の優位性の1つは、Wi-Fi環境やキャッシュレス決済加盟店の数などのインフラが整っていることです。加えて、リテラシーが高くて高齢者をサポートできる若者も多くいます。

 このうち、インフラについては政府や自治体がしっかり整備していかなければいけません。もう1つの世代間の課題については高齢者が使いやすいサービスを広げていく、という地方独自の視点が必要となるでしょう。この2つをしっかり整備した上で自治体や金融機関のサポートが拡大すれば、中小企業や高齢者に優しい日本なりの新しいフィンテックのあり方が完成するのではないでしょうか。

 今ではふるさと納税が日本中で活用されています。返礼品の効果ももちろんありますが、都市部の人の中にも地方出身で、地方に対する関心が強い方が多いという点も見逃せません。地方でどんなことが起こっていて、それに対してどういうソリューションを提供しているか。そういった情報を発信することで、地方の取り組みを強化し、サポートすることができると考えています。地方の現状を中央に紹介するのも大切ですが、同時に首都圏のフィンテックの取り組みを地方に発信するという双方向の情報発信が求められます。

識者プロフィール:神田潤一(Fintech協会理事/株式会社マネーフォワード執行役員)

東京大学経済学部卒。米イェール大学より修士号取得。1994年日本銀行に入行、金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当。2015年8月から2017年6月まで金融庁に出向し、総務企画局企画課信用制度参事官室企画官として、日本の決済制度・インフラの高度化やフィンテックに関連する調査・政策企画に従事。2017年9月から現職。2017年11月より、一般社団法人Fintech協会理事を務める。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.