クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

船からトラックまで 水素ラッシュを進めるトヨタ池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年04月06日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

 全ての中心にあるのは、MIRAIに搭載される燃料電池スタックだ。MIRAIはいわずと知れた燃料電池車(FCV)で、水素と酸素を反応させて発電するFCスタックを備えている。トヨタ幹部によれば、「車両価格741万円のMIRAIはクルマの価格としては安くないが、高出力の燃料電池スタックだと考えると、強力な価格競争力を持っている」とのことで、クルマ以外の燃料電池需要に対して、MIRAIのFCスタックの持つポテンシャルは大きい。

船舶向け燃料電池

 そうした従来の枠を越えた取り組みのひとつが、船舶用の燃料電池を採用した世界で初めての自立エネルギー型燃料電池船だ。

2本のマストで帆走するほか、船体上面に太陽光パネルを装備、さらに海水から生成した水素を用いた燃料電池など、複合的な動力を搭載する

 フランスのヨットレーサーのビクトリアン・エルサール氏と、探検家でドキュメンタリー作家のジェローム・ドラフォス氏が、レース用のボートを改造して制作した「エナジー・オブザーバー号」は、太陽光や風力の再生可能エネルギーや海水から生成した水素を用いた燃料電池など、複合的な動力を搭載する世界で初めての自立エネルギー型燃料電池船だ。

 17年6月にフランス北部のサン・マロ港を出発後、6年をかけて50カ国、101の港に立ち寄りながら、世界一周航海に挑戦している。当然のことながら事前に充電した電力だけでは遠洋航海は不可能なため、航海しながら発電することが求められる。太陽光や風力だけでは、動力が得られない局面でも推進力を失わないという面で、燃料電池が果たす役割は大きく、当然ながら航海の安全に寄与するだろう。

 水素と燃料スタックの利用範囲を船舶に拡大することは、燃料である水素やシステムなどの生産量の安定、インフラの充実にもプラスに作用するはずで、自動車と併せて水素利用の拡大が見込めるはずだ。

新型MIRAI用にコンパクト化されたことを生かして、船内のスペースに収容されるMIRAI用のFCスタック

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