期待のアビガンが簡単に処方できない理由専門家のイロメガネ(5/5 ページ)

» 2020年04月21日 09時57分 公開
[松本華哉ITmedia]
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アビガン治験で効果が出た後のこと

 Twitterなどで、新型コロナウイルスに感染し、すでにアビガンを飲み始めた人、治療として使用したという医師の投稿もある。年齢は分からないが、これから子どもを持つ可能性のある年代の方もいるであろう。

 先ほど引用した警告にあるとおり、アビガン投与後、7日間程度避妊するだけで本当に大丈夫なのかは、現時点では誰にも分からない。治験で試されたわけではなく、100%大丈夫であるとも、危険だともいえない状況である。

 まさに「毒をもって毒を制す」という、医薬品の本質が表れているのがアビガンである。実際、アビガン投与の結果、速やかな解熱と低酸素血症の改善を認めたという情報もある。しかし実際の治療で、アビガンだけを投与しているとは考えにくい。他の薬も併用しているのであれば、どの薬が効いているのかは断言できない。副作用のない医薬品はない。

 治験を経て、アビガンの承認申請が通り、新型コロナの特効薬ということになれば、治験時に比較して、多くの患者に治療で使われる事になるが、治験で報告されることのなかった新たな副作用が出て、不幸な予後にならないことを祈りたい。

 医薬品の投与で大切なことは、患者に十分な情報が与えられること。そして、副作用と効果、デメリットとメリットを考えたうえで、その薬を使うかどうかを自分で選択できることである、と薬剤師の立場から強調しておきたい。

執筆者 松本華哉 薬剤師

2002年、名古屋市立大学薬学部卒業、薬剤師免許取得。2004年、名古屋市立大学大学院薬学研究科 博士前期課程修了。有機化学合成、創薬研究に従事。

総合病院の門前薬局勤務を経て、大手医薬品開発受託機関であるイーピーエス株式会社に12年勤務。医薬品の市販後調査に携わる。その後メディカルライティングにも従事。主に、市販後医薬品に関わる厚生労働省への提出文書の執筆。現在は、製薬業界に特化したコンサルティングベンチャー企業に勤務しながら、ライフワークとして、コーチングの活動も行っている。 

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