期待のアビガンが簡単に処方できない理由専門家のイロメガネ(4/5 ページ)

» 2020年04月21日 09時57分 公開
[松本華哉ITmedia]

市販後に初めて出る副作用もある

 アビガンについて知りたい人は「アビガン 添付文書」と検索してほしい。全部読まなくとも、せめて「警告」と書かれている赤字部分だけでも見てほしい。

 医薬品には必ず「添付文書」が作成される。ここには、その医薬品が医薬品として認められるまでに得られた、集大成ともいえる内容が書かれている。医薬品の箱にも必ず同封されていて、新人薬剤師はこの添付文書を読んで勉強をする。この「添付文書」には投与方法や副作用、使ってはいけない患者の情報などが記載されている。

 アビガンの添付文書には、このように書かれている。

 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。

 本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと。

本剤の投与にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。

 さらに、アビガン添付文書には、他の大部分の薬にはない「特殊記載項目」という項目がある。これは富士フイルム富山化学のWebでも、特に目立つ位置に掲載されている。

 本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。本剤の使用に際しては、国が示す当該インフルエンザウイルスへの対策の情報を含め、最新の情報を随時参照し、適切な患者に対して使用すること。

新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する本剤の投与経験はない。添付文書中の副作用、臨床成績等の情報については、承認用法及び用量より低用量で実施した国内臨床試験に加え海外での臨床成績に基づき記載している。

 注目すべきは最後の部分である。

 実際に、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症に対してアビガンを使ったことはない。そして、今後実際に使われるであろう投与量よりも少ない量で、国内の臨床試験を行った。ということだ。

 これは何を意味するのか。それは、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対して使ったことがないから効くかどうかは分からない、インフルエンザの治験をしたときよりも多い量を使うので、新たな副作用が出るかもしれない、ということである。

 医薬品が病院で処方されるようになり、多くの人がさまざまな臨床的条件下で使うようになって初めて、治験では報告されなかった、別の新たな副作用が出ることも珍しくない。例えば、心臓疾患の人が使うと危険、免疫抑制剤を使った治療をしている人は副作用が出やすいなど、市販されて日常の診療で広く使われてから、新たに分かる副作用も多々あるのだ。

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