新型コロナ薬のレムデシビルは、なぜ米中で治験の結果が正反対だったのか?専門家のイロメガネ(2/3 ページ)

» 2020年05月19日 07時00分 公開
[松本華哉ITmedia]

米国と中国の治験が正反対の結果になった理由

 米国と中国で正反対の結果が出た背景は、一言で言えば「何をもって薬が効いたか?」という指標の違いによるものだ。

 米中、そしてギリアド社の治験の詳細な違いは後述するが、どんな指標を使って、どの程度変化したら改善と判断するのか、その定義によって結果は変わってしまう。評価項目の妥当性を研究することもあるほどだ。

 より正確にレムデシビルの効果を調べるため、それぞれの試験の計画段階で、専門家が適切な評価方法を十分に検討してはいるものの、「薬が効いた」という判断はそれでも難しい。

 加えて中国の治験は、都市封鎖の影響で患者が減少し、計画していた人数が集まらず途中で打ち切られた経緯もある。予定通りの人数が集まっていたら、また違った結果が出ていた可能性もある。

(1)中国治験の評価項目

 患者の状態を6段階に分け、2段階改善(1=退院から6=死亡まで)するまでの日数、または退院するまでの日数の、いずれか早い方を「効果あり」と定義した。つまり、患者が改善するまでの日数が、レムデシビルを使った患者と使わなかった場合で差があるかどうかを確かめた。

 結果を簡単にいえば、レムデシビルを使おうが使うまいが、改善までの日数に差はなかった。差がないという結果なので、確かに「効果は確認できなかった」という結論は正しい。

(2)ACTT試験 (米国国立アレルギー感染症研究所:NIAIDの治験)

 この治験では退院するか、日常生活に戻るまでの回復期間を指標として、レムデシビルを投与してから15日目の患者の状態を8段階で評価している。

 結果は、レムデシビルを使った方が、使わないよりも早く回復するという結果になった。一方で死亡率は、レムデシビルを使っても使わなくても差はなかった。

(3)アメリカ・ギリアド社 SIMPLE試験

 この試験では、患者の「改善」とは、7段階スケール(退院〜酸素療法の必要性〜死亡)で評価し、投与前と後で2段階以上の改善が見られることとした。また、酸素療法と治療が不要となるか、退院することが「回復」と定義された。現在、試験は実施中である。

各試験の評価項目比較(クリックで評価の詳細)

 それぞれ評価方法は少しずつ異なっているが、レムデシビルが効くかどうかは、患者の臨床的な状態を6〜8段階で評価すること、その指標で2段階以上良くなったとした場合を改善と定義していることが共通している。

 そしていずれの治験も事前に決めた評価方法に沿って、効果あり・効果なし、という結論が出ている。したがって評価基準が違えば、また違った結論になっていた可能性がある。どれかが正しくてどれかが間違っているということではなく、あくまで評価基準の違いが結果に反映された、ということになる。

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