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江本孟紀が語る「野村克也の組織マネジメント」野村克也と江本孟紀『超一流』の仕事術(2/5 ページ)

» 2020年05月31日 08時00分 公開
[瀬川泰祐ITmedia]
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仲が悪いコンビの方がうまくいく

――選手同士が仲良くする必要は必ずしもないと。

 これは私の持論なんですけど、セカンドとショートの「名二遊間」というのは、仲が悪いコンビの方がうまくいくと思っているんです。仲が悪い選手同士だと、相手のミスがすぐ目に付く。相手に自分のミスは見せたくないですよね。もしお互いに口をきかないような関係だったら、ミスが出たときに「鼻で笑われたくない」「あいつに自分のミスを見せたくない」と思って技術を磨き上げ、完璧なプレーができるようになるんです。

 対照的に、弱いチームだと、ミスをかばい合ってしまいますよね。今はそのよう場面をよく見ます。でも、エラーしたときに「しょうがない。次、頑張ろう」というのでは進歩がありません。「仲良くしながら、みんなでかばい合う」という組織では、強くなりません。だから、(強くなる、うまくなるには)怒らないとダメなんです。ミスはするけど、ミスすることを認めたらいけない。当時のチームでは、そこは厳しくやっていました。

 今は昔のような「男気」はなくなりつつあります。若い世代の選手たちは、選手同士も仲良くしないといけないという環境で育ってきましたからね。だから、野村監督は、ヤクルトで専任の監督になったときには、一人ひとりの選手とはそれほどの接点は持たずに、自分自身が司令塔になって、「シンキングベースボール」「野村の考え」という理論で統率していましたね。

――南海時代は「人情」でチームを優勝に導いたにもかかわらず、それを捨てて「理論」で組織をマネジメントするようになったのはなぜだったのでしょう。

 若手選手に対して「人情論」が通用しない時代になったことが分かったからだと思います。野村監督は、時代を常に先読みしていました。ヤクルトスワローズの監督に就任する前の解説者時代は「野村スコープ」といわれる配球表を使って自分の野球理論を展開していました。

 ヤクルトの監督になってからは、それらの理論をベースに、時代に合った野球をしようとしているように感じました。野球では、走り込みや投げ込みが大切ですが、ただ「やれ」といっただけでは下の世代には通用しない。野村監督はそれを分かっていたからこそ、「俺は頭で野球を変えていくんだ」と言っていたんです。「人情」をベースにした選手時代の野球を捨て、「理論」に切り替えたわけです。でも、その時代感覚が大事なのですよ。時には今まで自分が築いてきたものを捨てることも必要なのです。

phot

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