――批判しあったり、意見を交換しあったり。野村監督に唯一意見をいえる教え子が江本さんだと野村監督も言っていましたね。江本さんは野村監督の人物像をどう捉えていますか?
野村監督は僕と違って……やっぱり野球一筋、真面目で妥協を許さない人でした。僕は「ついで」に野球をしていたような感じなんですけど(苦笑)。そこは大きく違うんですけど。
野村監督の代名詞ともいえる「生涯一捕手」という言葉がありますが、一生捕手で終わったと、はっきりいえるんじゃないかと思います。あれを現役時代に言っても説得力がなかったかもしれないけど、いまははっきりいえる。生涯一捕手ですよね。キャッチャーで終わったんですよ。最後まで捕手を貫いた人生でした。だって亡くなって寝ている掛け布団を(息子の)克則がめくって「見てください。ヤクルトのユニフォームを着ていますから」と言ったんですよ。
僕なんか「ノムさん本当は南海なのに」と思って。キャッチャーというのはバッターを見ながらだます仕事。大して良くないピッチャーの球まで良く見せようとかね。ずっとだまくらかして生きてきとるっていうかね。だますというより相手を制するためにはいろんな手を使って一瞬たりとも気を抜かない。それがキャッチャーの特性なんですよね。
――野村監督が生前、「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上」といっていたそうですが、江本さんも野村監督に「遺された人」ですよね?
まあ野村監督に言わせたらそうかもしれませんが、僕なんか「カス」みたいなモノです(苦笑)。洟も引っ掛けられない。野村監督と50年も過ごしてきて、一度も褒められたこともないですし、飯も食わしてもらったこともないですから(笑)。徹底して理論派でした。
――そうなんですか?
あの人は人を連れて飯を食いにいくことが嫌いなんですよ。意識して食事に連れて行かないのではなく、そういう意識自体がないんですよ。
でも野村監督は「うそつき」だから(笑)。嫌いと言っておきながら本当は好きな場合もある。長嶋(茂雄)さんのことなんか、ボロクソに言っていましたけど、実は好きだったんですよね。
――江本さんは、野村監督から褒められたことはないとおっしゃられましたが、これまで野村監督から何かご褒美をもらったことはあったのでしょうか?
それは、この本(『超一流 プロ野球大論』)です。僕に残してくれたのはこの本ですね。最後にやっとご褒美をくれたなという思いです。だから、この本は、僕にとって人生の宝物ですね。
瀬川泰祐(せがわ たいすけ)
1973年生まれ。北海道出身。エンタメ業界やWeb業界での経験を生かし2016年より、サッカー・フットサルやフェンシングなど、スポーツ競技団体の協会・リーグビジネスを中心に、取材・ライティング活動を始め、現在は、東洋経済オンラインやOCEANS、キングギアなど複数の媒体で執筆中。モットーは、「スポーツでつながる縁を大切に」。Webサイトはこちらから。
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