コロナ禍で「アニメ冬の時代」は到来するか――混沌の2020年代、3シナリオで占うジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/4 ページ)

» 2020年06月02日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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悲観シナリオも「一時的」か

 楽観シナリオも、悲観シナリオも、それぞれに可能性がある。しかし景気は必ず上がり下がりの変動がある。アニメ産業も例外でない。

 海外での日本アニメの大衆化もあり、アニメは成長産業と思われがちだ。しかし歴史を振り返れば、アニメ産業は一直線の成長ではなかった。『機動戦士ガンダム』に代表される1970年代後半から80年代前半のブーム後は、アニメ制作の伸び悩みが見て取れる。この時期に海外からの制作受注に注力したアニメスタジオは少なくない。

 最近では2006年以降、10年代初頭までがアニメ制作が落ち込んだ時期であった。海外市場やDVD市場に期待し過ぎた過剰供給や、ネット上の海賊版ファイルの氾濫がアニメ産業に打撃を与えた。新興大手のアニメ製作会社GDH(現ゴンゾ)が経営不振から上場廃止、アニメ映像ソフト大手のジェネオン(現NBCユニバーサル)は電通から外資系のユニバーサルに売却され、バンダイビジュアル(現バンダイナムコアーツ)では厳しいリストラが実施された。そこからアニメ業界は10年をかけて復活してきた。

 中立シナリオ「ケースC」では、ケースA・ケースBで言及したプラス要因、マイナス要因の双方が過度な変動を打ち消し合い、結果として市場規模は中長期的に現状水準で維持される。

 何よりも重要なのは、国内、国外とも日本アニメの人気がまだまだあることだ。需要があれば、そこに供給が生じる。配信をはじめとするデジタル上のビジネスは今後も拡大するだろう。映画やライブイベントの状況も、時間がかかっても元に戻っていく。

 仮に悲観シナリオであっても、それは一時期的なものであっさりと切り抜けてさらに成長をするのかもしれない。市場が落ち込む兆しが現れると、神風のようなヒット作が現れて、盛り返すことがたびたびあったのも日本のアニメ業界だ。

 しかし個別企業について考えれば注意が必要だ。景気が落ち込んだ00年代後半も、『涼宮ハルヒの憂鬱』といった大ヒット作があった。その時期にその後のアニメの盛況につながるネット配信、ソーシャルメディア、2.5次元ステージといった新たなビジネスの萌芽があった。新しいビジネス取り入れることで急成長した企業もあったが、存在感を失う企業もありビジネスの主要プレイヤーの入れ替わりは激しかった。

 厳しい時代こそ、変化は激しくなる。アニメ業界の全体の大きさは変らなくとも、主要プレイヤーが一変することは十分ありうる。新しい年代に入った2020年、未来を見据えたアニメビジネスの関係者が次の時代に向けた新たなアイデアやエネルギーを培っていることだけは、間違いない。それが業界の次の原動力になるはずだ。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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