マーケティング・シンカ論

「売れなかった」ハムサンド、カメラ50台で真相解明 高輪GW駅「無人決済コンビニ」の実力開業から3カ月、成果は(2/3 ページ)

» 2020年06月08日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

 「TOUCH TO GOではカメラやセンサーを使って店内での利用客の動きを逐一追っていますから、利用客が『どの商品を手に取ったか』だけではなく、『どの商品を手に取った後に棚に戻したか』『どの棚の前にどれだけ立ち止まったか』『何も買わずに店を出ていった人がどれだけいるか』といったデータまで取得できます。これは商品の精算時にしか情報を取得できないPOS端末では、決して得られなかった類の情報です」(阿久津氏)

 例えば、ハム入りサンドイッチとチーズ入りサンドイッチの売り上げを比べてみたところ、後者の方が売れていることが判明したという。そこで店内の利用客の動きと属性をカメラやセンサーのデータを基に調べてみたところ、サラリーマン層は一度はハム入りサンドイッチを手に取るものの、棚に戻してもっと安い商品を買う傾向が高いことが分かった。

 こうしたデータから得られた知見を基に「高輪ゲートウェイ駅を利用するサラリーマン層は、より低い単価の商品を好むのではないか?」との仮説を立て、より単価の安い商品への入れ替えを検討したという。

 「こうした『買わなかった人マーケティング』には、とても大きな可能性を感じています。例えば開業当初は、高輪ゲートウェイ駅の観光目当ての利用客が数人連れだって入店する傾向が多いことがデータから見て取れます。こうした利用客が何も買わずに退店する率が高いことが分かれば、観光客に受けがよさそうなオリジナルグッズを多く仕入れるといった施策がすぐに打てます。これらのデータを商品の仕入れ先企業さんと一緒に分析しながら、日々仕入れ計画を検討しています」(阿久津氏)

photo TOUCH TO GOの阿久津智紀社長(取材はオンラインで実施)

マイクロマーケット開拓に挑む

 現時点では、データ分析の担当者がシステムのデータベースに直接アクセスしてデータを参照している。しかしこのやり方では、システムやデータに関する専門知識がないとデータ活用の恩恵を受けられないため、現在ではBI(Business Intelligence)ツールを用いてより手軽にデータを参照・分析できる方法を模索しているという。

 将来は商品の仕入れだけではなく、より広範なマーケティング活動にもこれらのデータを活用していきたいとしている。その一方、阿久津氏は「TOUCH TO GOが狙うビジネスセグメントでは、データ分析やマーケティングリサーチのサービスだけで顧客に価値を提供するのは難しいかもしれない」とも述べる。

 「TOUCH TO GOの無人決済の仕組みは、一般的なコンビニよりさらに規模が小さくて商圏が狭い『マイクロマーケット』をターゲットにしています。こうした店舗は大抵の場合薄利多売で、大きな収益はなかなか見込めません。そうしたビジネスモデルでは、高額なデータ分析やマーケティングのサービスは費用対効果を見込めません」

 ただし、TOUCH TO GOのそもそもの目的は店舗の無人化・省力化によるコスト削減であり、これによってなかなか採算が取りづらいマイクロマーケットの店舗運営を支援するところにある。その副次的な効果としてデータ活用によるメリットが同時に得られれば、これまでコストの制約からデータ活用になかなか踏み出せなかった店舗でも、データ活用による業務改善やマーケティングに踏み出せるようになる。ひいては、小売業界全体の課題解決に結び付けられるのではないかと阿久津氏は力説する。

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 「今後少子高齢化がさらに進み、アフターコロナのライフスタイルが定着すると、なるべく外出せずに買い物を済ませたいというニーズが高まってくるはずです。現状、こうしたニーズに応えられるのは宅配サービスしかありませんが、鮮度の高い商品などは宅配には向いておらず、コンビニよりさらに小規模で商圏が狭い店舗がこれからは求められてくるでしょう。そうした小規模店舗が採算を確実に確保するには、今回TOUCH TO GOで実現したような無人決済の仕組みが極めて有効だと考えています」

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