マーケティング・シンカ論

なぜ、マーケティングでAIが注目されているのかアフターコロナは「試すチャンス」?(3/3 ページ)

» 2020年06月10日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 前述のUSAAの事例でも、AI導入を推進した担当者は、組織にまたがる形で分散して存在するデータにリアルタイムでアクセス可能にすることに苦労したと告白している。他にも多くの企業において、大量のデータが社内に生まれているにもかかわらず、それを有効に活用できる体制が整えられていないことが課題となっている。

 また、機械学習を有効に機能させるには、それなりの強力なITインフラが必要になる。大量の情報を保管し、処理し、顧客行動を予測するモデルを構築する際に、多くのコンピューティングリソースを使用するためだ。そしてそれを用意するには、多額の予算を用意しなければならない。マーケティングの効果を高めながら、予算の削減も同時に達成する武器となるはずのAIが、逆に会社の台所事情を苦しくしてしまう恐れがある。

 幸いこうした事態に対応するために、多くのベンダーがクラウドベースのAIソリューションを提供している。最近は「AI PaaS」といって、AIアプリケーションを実現するのに特化したPaaS(Platform as a Service)も登場している。とはいえこうしたクラウド活用を進めるにも、クラウドに関する専門知識や経験を持った開発者がいなければならない。IT人材はマーケティング部門の管轄外だが、そうした人材を積極的に採用することを、関係者に働きかけていくことも必要だろう。

 そしてマーケター自身も、AIに関するスキルを身に付ける必要がある。これは自らAIを開発しなければならないという意味ではない。AIに何ができるか、何ができないか、どうすれば有効活用かを判断する「AIリテラシー」が求められるという意味だ。前述のように、テクノロジーの進化は日進月歩であり、かつて機械には難しいとされていた接客すら十分にこなせるAIが登場している。そうした動向を把握し、人間とAIがそれぞれどんな強みを発揮したらマーケティング施策をより高度化できるのか、判断するのである。それこそ、最後まで人間に任される仕事となるだろう。

 進化論では、生物に進化を促すような厳しい環境を、淘汰圧(選択圧)と呼ぶそうだ。文字通り、進化することで(生物の場合にはそれが遺伝子によってランダムに行われるわけだが)その環境に淘汰されなかったものが、新たな環境で勢力を誇る存在として選ばれることになる。「アフターコロナ」あるいは「ウィズコロナ」と呼ばれる世界は、確かにGoogleですら予算を減らすような厳しい環境だが、AIを始めとした新しいテクノロジーを試すチャンスと捉えて積極的に進化を目指そう。

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