コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発専門家のイロメガネ(4/5 ページ)

» 2020年07月10日 07時00分 公開
[中嶋よしふみITmedia]
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私鉄各社の似通ったビジネスモデル

 私鉄による都市や不動産開発は西武鉄道に限らない。同じく池袋駅から線路を走らせる東武、新宿駅からは小田急と京王、渋谷駅からは東急、上野駅から京成と、私鉄各社はいずれも山手線のターミナル駅から線路を引き、そこに住宅を作り商業施設を作り娯楽施設を作るという、シムシティ的なビジネスを展開した。

 関西では、現在は村上ファンドの攻勢によりエイチ・ツー・オー リテイリングとして一体化したものの、かつては阪急と阪神もまた同じビジネスモデルを展開していた。そのほか関西なら南海、近鉄などといった私鉄が各地に多数ある。

 元々このようなビジネスモデルを生み出したのは阪急の小林一三だといわれている。私鉄から不動産開発、商業施設、娯楽施設(宝塚歌劇団は阪急が運営母体で団員は社員)、果ては球団経営まで、丸写しといってもいいほど、西武は阪急と似ている。

 高度経済成長期からバブル期にかけて、このビジネスモデルは確実にもうかる仕組みだった。その証拠として私鉄各社は、成功した企業の広告塔としてプロ野球球団を保有していた。もちろん球団保有は鉄道の利用者増加という実利の面もあるが、シーズン中には毎日のようにゴールデンタイムに試合が放送され、スポーツニュースで取り上げられ、スポーツ新聞等でも取り上げられるという広告効果は非常に大きい。

 現在では都市開発や不動産開発というと、おそらく森ビルや三菱地所、三井不動産、住友不動産等のデベロッパーを思い浮かべる人が多いだろう。近年の大規模な開発ならば、六本木ヒルズや新丸ビル、東京ミッドタウン日比谷など都心部のものが多い。

 このようにプレイヤーが変化した背景には、西武が得意とするリゾート開発がバブル崩壊で痛手を負ったことや、グループ再編で怪物のような経営者である堤義明氏が引き、ホテルやスキー場を多数売却したことから企業としてのパワーが落ちたことなどがある。

バブル期の「リアル桃鉄」

 かつての西武グループは都心で一番の一等地を保有し、土地の評価額上昇(キャピタルゲイン)を担保に巨額の資金を調達して、不動産を取得し開発を行っていた。そしてそこで得たキャピタルゲインでさらに不動産開発を推し進めた。このような雪だるま式で開発を進めて西武グループは資産を急激に増やしていった。もうけのすべてを不動産取得につぎ込み、資産の増加を目的とする「桃鉄」の世界がそこにあった。

 しかしこのビジネスモデルは、令和となってはまるで夢物語。もはや異世界の話に聞こえるかもしれないが、数十年前の日本ではこれがリアルだった。

 だが当時ですらこれはバブルであり、”「不動産の価格はそこから得られる収益で決まる」という大原則からはとても正当化できないほど地価が上昇している”と真正面から指摘していたのは経済学者の野口悠紀雄氏くらいだろうか。バブル真っただ中の1989年に著書「土地の経済学」で、「日本の賃料はイギリスの2倍なのに地価は10倍」と諸外国との極端なズレをはっきり指摘している。

 結果的に野口氏の指摘は正鵠(せいこく)を射ていたわけだが、少なくともバブルが崩壊し、ITによって世の中が大きく変わるまでは、私鉄を中心にした都市開発は必ずもうかる鉄板のビジネスモデルだった(都市開発と私鉄の関係について興味がある人は、猪瀬直樹氏「ミカドの肖像」「土地の神話」を参考にされたい、筆者注)。

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