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コロナ禍のテレワークが崩壊させた「会社は安住の地」という幻想訪れるアイデンティティーの危機(1/4 ページ)

» 2020年07月14日 08時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]
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 コロナ禍でホワイトカラー層を主として急拡大したテレワーク。緊急事態宣言が解除されて以降、通常勤務に戻す企業が相次ぐ一方で、東京都などで感染者数が増加に転じたことなどから、慌てて再度テレワーク勤務を推奨する企業も少なくありません。また、今なお原則テレワークの方針を変えていない企業もあります。

photo コロナ禍でのテレワークが暴きつつあるモノとは?(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

露呈した会社員の「アイデンティティー危機」

 今後、秋にかけて第2波、第3波が懸念されるため、テレワークの長期化に備える必要があります。既にメンタルへルスの問題が指摘されており、「テレワークうつ」という言葉まで生まれるほどです。パワハラや不良社員の存在も図らずも露呈しました。しかし最も本質的でかつ厄介な課題となるのは、実はアイデンティティー(帰属意識)なのです。

 終日オフィスではなく在宅で勤務することよって、社員は従来の「勤務地」という「身体的な拘束」から解放されるのですが、それによって「場所性と直接性に基づく協働行為」が失われ、会社への帰属意識や仲間との一体感を持ちにくくなるのです。

 コロナ禍における新入社員のアイデンティティーの危機が好例です。「オンライン入社式」や「オンライン研修」などが続くことで、重要な通過儀礼がヴァーチャルな空間の中でひたすら漂白され、地に足が着いていないような「宙ぶらりんの状態」に戸惑ってしまうのです。これは〇〇大学の学生から〇〇会社の社員へと帰属先の移行が、「物理的な地平」を欠いているために完了できているように思えないからです。

 このようなアイデンティティー(帰属意識)の拡散による心理的な動揺が、テレワークの長期化によっても起こり得るのです。通勤のような空間的な切り替えがなくなり、対面のコミュニケーションはWeb会議で行われ、外見上はノマドワーカーのような状態になります。

 緊急事態宣言下でも、直接会社に集まる会議や、社員の出勤にこだわり、宣言解除後もリスクに関係なく直接対面のやりとりを強いた上司や経営者がいたことが記憶に新しいですが、実のところ、その深層には「上司らしさ」「経営者らしさ」が在宅では得られないという理由も隠されているのです。

 会社のヒエラルキーに依存した「自分は何者か」という感覚は、「職場という特殊な時空」でこそ成立するものだからです。つまり、彼らは○○会社の○○というポジションの臨場感を保つための物理的な道具立てを切実に必要としたのです。日本の管理職がもともと「企業人としてのアイデンティティー」に偏重してしまっているからですが、それがウイルス禍よりも優先すべき問題であったことは想像に難しくありません。

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