いずれにしても、わたしたちは、(一つの強固な帰属に安んじたいという欲求を投影した)「安住の地」を渇望しつつ、それが「監獄」と化す懸念との間でもがきながら、アイデンティティー(帰属意識)の問題と向き合うことを避けられないのです。
そうであるならば、特定の集団や組織に過度に帰属することなく、むしろその境界や周辺に広がる(上でも下でもない)「斜めの関係」を最適化する形で、緩やかなネットワークの構築を模索していくほかはなさそうです。
人生100年時代の働き方のオピニオンとして有名な経営学者のリンダ・グラットンは、自分の価値観や生き方と合った「自己再生のコミュニティー」を意識的に作ることが不可欠と指摘しました(『ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』池村千秋訳、プレジデント社)。これはさまざまなジャンルの複数のつながりを前提にしたものです。
コロナ禍は、強い帰属志向の弊害が否応無しに暴かれる好機の到来でもあります。いわばアイデンティティーの毒を中和する局面をももたらす福音であるともいえるのです。
1979年、奈良県天理市生まれ。大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。専門分野はテロリズム、ネット炎上、コミュニティーなど。著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)がある。
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