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» 2020年07月25日 09時00分 公開

悪と欲望から斬る行動経済学:サラダマックが大失敗した訳――「データの奇麗なウソ」をマーケッターはなぜ妄信するのか (3/4)

[松本健太郎,ITmedia]

人間は「合理的」などではない

 寿命について合理的に考えれば、クォーターパウンダーやグランドビッグマックのような高カロリーの食事を口にするよりも、質素で健康的な食事を口にする方が良いに決まっています。それなのに、どうして時々マクドナルドに行きたくなるのでしょうか。

 答えは簡単です。人間は合理的ではないからです。正確に言えば、状況に応じて合理性の定義が変わるため、本人は合理的だと思っても、周囲から見ればとても合理的に見えないのです。

 普段は健康を第一に心掛けている人が、肉厚なマクドナルドのハンバーガーを食べてしまう。どうしてもお腹がすいていて、ガッツリしたおいしさを味わいたいからです。

 夏休みがもうすぐ終わろうとしているのに、宿題を先延ばしにしてしまう。面倒なことが嫌で楽なほうに逃げたいからです。後遺症のリスクなんて1%も無いのに、手術をためらってしまう。万が一を考えてしまうからです。後先を考えずに、バイト先でとったバカな行動をSNSにあげてしまう。まさか自分の行動がネットで晒(さら)されるなんて思いもしないからです。

 合理的に考えれば選ばない選択肢を自ら選んでしまうのは、意思決定に歪(ゆが)み(バイアス)が生じているからです。だから「不健康かもしれないけど美味(おい)しいから止められない」と「背徳感」を抱きながらも、一時の快楽に身を委ねてしまうのです。

 ただし、バイアス=悪ではありません。人間の意思決定のクセ、しかも合理的ではないのに本人は合理的だと考えてしまうクセだと捉えて頂ければ良いでしょう。

 そうした人間の意思決定の研究をしているのが行動経済学です。合理的でない人間の心理を究明する点から、行動経済学は「心理学と経済学」(psychology and economics)とも呼ばれています。

 伝統的経済学は人間を「思慮深く、ある意味で利己的で、高い計算能力を用いて、あらゆる情報を理解して、最適な意思決定を下せる」と考えています。もちろん、そうした一面もあるでしょうが、大半は「思慮浅く、ある意味で破滅的で、高くない計算能力を用いて、ほとんどの情報を咀嚼(そしゃく)できず、バイアスまみれの意思決定を下してしまう」のです。

 つまり行動経済学は、合理的な意思決定の限界に着目していると言えます。本人から見れば「ベストではないかもしれないがベターな選択だった」と思える意思決定も、周囲から見れば「ワーストに近い」と見える場合があります。しかし、それは本人が愚かなのではなく、行動経済学的観点に立てば「バイアス」が意思決定を歪めている可能性があります。

 これは良い悪いの問題ではありません。ましてや意思で解決する問題でも、罰則で解決する問題でもありません。人間とは、そういう生き物なのです。私もそうですし、この本を手に取っている読者のみなさんもそうです。

 そうした前提に立って、効率的かつ生産的な選択肢を選ぶように人々を促すのがナッジです。「そっと押す」「誘導する」などの意味があり、日々の意思決定のあり方の変化を目指しています。

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