「倍返しより転職しろ」「メガバンクは修羅の世界」半沢直樹にはまる中国人の突っ込み浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(3/6 ページ)

» 2020年08月20日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

土下座強要の副支店長にドン引き

 「半沢直樹を見た学生たちが日本企業で働くの怖いと言い出しちゃって」

 そう苦笑するのは、中国・大連の大学で日本語を教える中国人教員、劉さん(40代、仮名)だ。日本人は半沢直樹の倍返しに「すっきり」するが、中国人大学生はその前段のどろどろの権力闘争に怯えているという。

 中国人から見た日本企業のイメージは、この20年で揺れ続けてきた。00年代は「安定している」「中国企業に比べて給料がいい」点が人材をひきつけ、日本語学習熱も高まった。同時に「残業」「上下関係」、さらには外国人を悩ます「敬語の難しさ」が負のイメージも広げ、10年代に入ると、欧米企業や中国のIT企業に比べて「昇進が遅い」「昇給幅が少ない」と優秀な人材から敬遠されやすくなった。

 だが、この数年で日本の労働環境は変わった。「働き方改革」で残業が減り、人不足で売り手市場になり、インバウンドに対応するため中国人を採用する企業も増えた。中国人大学生にとって、日本企業の相対的魅力が上がってきたところに、半沢直樹がメガバンクのどろどろぶりを見せつけ、再びげんなりさせたわけだ。

 日本人は脚色を脚色と理解し、「歌舞伎役者の大げさな演技」「おじさん世代のファンタジー」として楽しめるが、日本語を勉強し始めたばかりの中国人大学生にとって、江島副支店長が半沢直樹に土下座を求めるシーンは、ドン引きそのものという。

 日本企業でも勤務経験のある劉さんは、「中国は転職社会だけど、私のような大学教員は終身雇用の公務員に近いので、学部長選挙や教授昇進を巡る権力闘争は、半沢直樹の世界よりひどいくらい。だから学生には『中国企業だって同じくらい怖いよ』と言ったけど、みんな『だったらもう働きたくない』という返事だった」と話した。

 大学時代に交換留学で来日した劉さんは、当時視聴したフジテレビのドラマ「東京ラブストーリー」の方が理解できなかったそうだ。

 「カンチが朝帰りした後、駅でネクタイを買う場面を見て、意味が分からなかった。当時は中国でスーツ着ている人が少なかったし」

豆瓣では「東京ラブストーリー」の評価も9.4(リンク

 現在、日本語を教える立場にある劉さんは、「教科書よりもドラマの方が学生も興味を持ってくれていい教材になるし、半沢直樹のアフレコで会話の勉強をする人もいる。だけどちゃんと補足説明しないと、日本企業が修羅の世界のように見えてしまう」と語った。

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