世界各国で金融情報の提供を行っているREFINITIVのレポート「GFMS GOLD SURVEY2019 」によれば、金の年間総需要3980トンのうち、約77%に相当する3052トンの需要が、宝飾品や個人投資といった「貴金属としての需要」となっている。産業需要は391トンと約1割程度にとどまり、産業需要の停滞が価格に及ぼす影響は軽微だ。
ではプラチナの需要構造はどうだろうか。同じくREFINITIVの「PLATINUM GROUP METALS SURVEY 2019」によれば、プラチナの年間総需要242.6トンのうち、約70%を占めるのが自動車触媒や化学・エレクトロニクスといった産業需要にある。一方で、宝飾品・個人投資という「貴金属としての需要」は残りの3割程度と、金よりもはるかに低い比率なのだ。
景気が停滞すると主に産業面からプラチナの需要減少が発生し、供給がだぶつくことで値下がりする。ここから考えれば、プラチナが金と比べて景気動向に左右されやすい様子が分かるだろう。
この特性は、より産業色の強い「銅」を重ね合わせるとよりはっきりと浮かび上がる。図表は、2013年の価格を100としたプラチナと銅の比較チャートである。これをみると、銅とプラチナが高い相関で推移しており、コロナショック時に急落してから反転するという動きも一致している。
そうであるとしても、金価格は半年で30%を超える破格のリターンを示している点に要注意である。金よりもはるかにリスクの高い株式の期待収益率が、超長期の年率換算で4〜6%程度であるにもかかわらず、今年の金のリターンは株式をはるかに上回っている。
それを可能たらしめるのは、「投機」にある。投機とは、物事の本質的な価値に資金を投じる投資とは異なり、値動きや需給の緩急の先行きを予想して利益を得ようとする動きである。
いくらプラチナに占める産業需要の比率が高いといえども、流通量が30倍も異なるのであれば、金の半額以下で推移するプラチナはやはり“安すぎる”といっても過言ではない。本質的には、金とプラチナにおける景気後退への耐性は貴金属という面から見れば同等であるはずだからだ。
そうすると、プラチナは、「産業需要の低下により受給が緩む」という側面で価格が抑えられており、金は「貴金属としての需要増加により受給が締まる」という側面で価格が押し上げられているとみることができる。このような投機的な側面が価格差の拡大を招いている可能性がある。そうであるとすれば、長期的にはこのような価格の逆転現象は次第に解消されていく可能性が高い。
ただし、「有事の金」という言葉はあっても「有事のプラチナ」という言葉は存在しない。一番手に比べて二番手、三番手は知名度がはるかに劣るものだ。「金」が有事における最高の資産退避先であるというイメージがあるのであれば、それ以外の貴金属に目を配らずに金に人々が殺到する事もうなずける。
人気の高まりに便乗する形でプロの投機筋が参入することで、さらに一段の価格上昇が発生する可能性がある。これまでは投資と縁が遠い人物が金投資の話をしたり、周囲で金の話題を頻繁に耳にしたりすることがあれば、これはかつての歴史で幾度となくみられたバブル相場であるといわざるをえない。金価格のバブル相場化とその後の崩壊には細心の注意を払うべきだ。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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