アリババとシャオミの寵愛受けた「小鵬汽車」が描く“呂布”テスラを倒す道浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/4 ページ)

» 2020年09月03日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

冬の時代を経てコロナ禍が潮目変える

 中国では政府が環境対策の一環として、13年に新エネルギー自動車(EV、PHV))の購入に大規模な補助金を導入したり、ナンバープレートを取りやすくしたことで、市場が急拡大。販売台数は、14年に7.5万台だったのが、17年には77.7万台まで増加した。14〜15年にかけて自動車製造ノウハウのない企業の参入も相次ぎ、EVメーカーはピーク時に400社に達した。

 だが、補助金搾取も多発し、政府は18年以降補助金を縮小。さらに自動車市場全体の成長が止まり、18年、19年と2年連続で販売台数が減速した。EV業界は二重の打撃を受け、BYDやNIOなどリーダー企業が大きく業績を落としたほか、量産化体制を築けていなかった企業は資金調達の壁に直面した。EVメーカー数も40社まで減った。

 そこに20年前半、新型コロナが世界中を揺らしたわけだが、ニューノーマルへの対応を迫られる中、中国の有力EVメーカーはむしろ息を吹き返すきっかけを得た。

 それが20年に完全打ち切りを予定していた、中国政府による経済対策であるEVへの補助金延長だ。米テスラの上海工場が19年末に稼働し、日本円にして500万円台まで価格が下がると、高所得者層の有力な選択肢になった。EV業界の先行きが突然開け、19年末までに新車発表にこぎつけていた理想汽車、小鵬汽車に資金が集まることとなった。一方で、量産体制がつくれなかったメーカーは淘汰された。欧米で注目されていたBYTON(バイトン)はその代表だ。

IT企業を600億円で売却しEVメーカー創業

 理想汽車は、純EVを諦めてブラグインハイブリッド車(PHV)に切り替え、美団の王CEOら大富豪を説得して資金調達できたことが、生き残る大きなファクターとなった。19年12月に最初の車を発表したばかりだが、受注台数は1万台に到達した。

 そして本来、理想汽車より先に上場するとみられていたのが小鵬汽車だ。

 同社を創業した何小鵬CEOは、スマホメーカーXiaomi(小米科技)とEC大手のアリババという中国を代表するメガIT2社と太いパイプを持つ起業家であり、経営能力も広く認められていた。

 現在42歳の何CEOは04年にウェブブラウザ「UC」事業で起業した。UC時代に、Kingsoft (金山軟件)の総裁で、後にXiaomiを創業した雷軍氏から出資を受けたのを機に付き合いが始まり、小鵬汽車もXiaomiから複数回資金を調達している。

 UCは14年、IT企業のM&A案件としては過去最高額の40億元(約600億円)でアリババに買収された。何氏はそのままアリババの幹部になったが、同年イーロン・マスクと会ったことでEVに将来性を感じ、起業家数人で小鵬汽車を創業した。

8月27日、小鵬汽車はニューヨークで上場した(何CEOのウェイボより)

 当初はアドバイザー的な役割にとどまっていた何氏だが、17年にアリババを退社し、小鵬汽車CEOとして舵を取るようになった。同社は18年11月にSUV「G3」を発売。これまでに1万8741台を販売した。20年5月には2車種目となるスポーツセダン「P7」を発売。これまでに約2000台を納車した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.