クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「国民車」ヤリスクロス池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2020年09月21日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

「すごい」と思わせるような違和感がないところがすごい

 ひとまずパッケージから話を始めるとしよう。運転して最も感じるのが、確信を持って走れるクルマの見切り感だろう。これには当然第一義的にはコンパクトなボディーサイズが関係しているが、それだけではない。視界の良さと、違和感の少ないドライビングポジション、車両感覚のつかみやすいボディ形状がそれを後押しし、さらに繊細な車速制御を可能にしてくれるパワートレインがあり、シュアだが神経質でない操舵系も影響している。ブレーキまでもが、あつらえたようにしっくりくる。要するに総合力が高い。

 しかしそれらの美点は各々、決して衝撃を与えるほど出しゃばらない。英語のことわざでは “A new broom sweeps clean” 「新しいほうきはよく掃除する」というが、機能向上も追加機能も全くこれみよがしでない。あたかも履き慣れた靴のように、ごくごく自然で当たり前。「すごい」と思わせるような違和感がないところがすごい。

 そういう意味では、人生の中心にクルマがあるような人にとっては、「役」が乗っている感じが不足して、もしかしたら物足りないかもしれないが、自分の生活を支える道具としてこれだけ全てに穴がないクルマを探そうと思うと難しい。

ルーフ部と敷居の両側からブラックアウトして厚みを削り、ランプ類を回り込ませて幅広く見せる。「薄く広く」という古典的なスタイルセオリーをしっかり守っている

 読者に正直であろうとするならば、まあ一応断っておかなければならないのは、1590ミリと立体駐車場にはチトきつい車高だ。わずかではあるが完璧とはいえないペダルオフセット、そしてノイズである。

 元々TNGAは素養として、床板の遮音が玉に瑕(きず)なところがある。そこへ持ってきて板厚や遮音材をおごれないBセグメントだから、床回りの音はまあ静かとはいい難い。加えて絶対トルクの限られた小排気量エンジンと、パワーが必要な時は回転を上げるマネージメントのCVTの共演となれば、ここは弱点といえば弱点ではある。

 Bセグだと思えばこのあたりが平均値であるのも事実だが、見方を変えて、最高値だと300万円に近いクルマとすると、そこは少々厳しくいいたくなる。このあたりは自分の許容範囲に収まっているかどうかをそれぞれに判断してもらうしかない。

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