クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「国民車」ヤリスクロス池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2020年09月21日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

グレード別の乗り味

 メカニズムの構成はざっくり3種類あって、一番シンプルなのが、1.5NAのガソリンFFだ。これはサーキットで乗ってもそうだったが、ちょっとばかりヤンチャな仕立てに感じる。鼻先が軽く、ハンドリングがキビキビしており、車重はグレードによって多少違うものの、AWDも含めて1100キロ台前半に収まっている。

 旧ヴィッツの1リッターモデルのような、ヘロヘロの廉価モデルを想像するとだいぶ違う。むしろアシの印象は一番ハードだ。エントリーモデルというより、むしろファン to ドライブ派に向けたプチスポーティモデルだと思う。これで足りないならば、ヤリス・ファミリー全体としては、ほかに選択肢が用意されている。110キロ軽くて重心が低いヤリスはもう少し俊敏(しゅんびん)だし、まだ足りないなら欧州版のヤリス同様にワイドトレッド化したGRヤリスのFFモデルも、果てはラリーウェポンのGR4もある。お好みのままに選べるが、それはあなたの財布次第である。

 ちなみに、大勢の自動車ジャーナリストが乗り回した後のオンボードの実燃費でも15キロは超えていた。見ていたわけではないので、確証があっていうわけではないが、ぶん回した人も結構いたと思うので、どれだけ踏んづけても、多分これ以下になることはないと思う。ちなみに先ほどちょっと触れたように、必要とあらばこのガソリンモデルでもAWDが選べる。

対角線上の2輪を浮かせて駆動できるかのテスト。通常浮いた車輪から力が逃げてひたすら空転するのだが、駆動モードの切替で難なく脱出してみせた

 FFのハイブリッドはおそらく中心となるモデルで、これは一番穏やかな性格だ。現行カムリがデビューした時、ぬるめの温泉につかって、開放感で全身の凝りがほぐれるような安心感を感じたが、これがやはりそういうモデル。そういう癒しと寛ぎがありながら、しっかりもしている。歴代クラウンに通じるこれこそが、実はトヨタにしかない味なのではないかと思う。しかもこれは30キロくらい走る。積雪地帯を除外すれば、都市内の日常生活で使うクルマとして本命はこれだろう。

 さて、そうなると残るのはハイブリッドにe-FOURを組み合わせたAWDモデルだが、用途的にみれば、ウィンタースポーツなどのレジャーを志向する人ならこれがベストなのはわざわざ書くまでもない。舗装路での印象を見れば、温厚なFFの性格に対して、e-FOURにはもう少しハキハキした有能系の高精細感がある。

 元来の素質がオールラウンダー系であるヤリスクロスに、悪路走破性を拡張搭載しているわけで、普通の人が入っていく気になる路面なら、おそらく走れないところはない。

 今回片側の前後、あるいは対角線の前後のタイヤが空転するような厳しいテストをトヨタが組んでいたのだが、モードスイッチの切替えでどちらも難なく脱出できた。エンジンの出力制御とブレーキつまみによる擬似LSDによるもので、作動中はギーコギーコとうるさいし、デフロックを備えるクロカン四駆の世界から見れば本格的とはいえないが、能力的には十分以上。新車購入時についでにスタッドレスも調達しておけば、本当にどこにでも行けるし、そうやって日本狭しと走り回ったとしても燃料代に泣かされることはない。

シフトレバーの下左に3つ並ぶボタンの一番上がオートパーキング。その右の大きなダイヤルが駆動モードのセレクター。ちなみにHVとガソリンで少し機能が違う。写真はHVで、モードはスノーとトレイルだが、ガソリンではこれがマッド&サンドとロック&ダートになる。少しずつ機能は異なるが、スタックから脱出する機能という意味では大筋同じ

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