「先送り」したいきなり!ステーキと「先手」を打った鳥貴族 コロナ禍で明暗分かれた「見通し」の差とは?小売・流通アナリストの視点(2/5 ページ)

» 2020年10月01日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

図表で見る、「いきなり!」の凄さと脆さ

 次の図をみても、この会社の成長スピードが「驚異的」であることは一目瞭然だ。

いきなり成長したペッパーフードサービス(同社IR資料から筆者が作成)

 14年には年商100億円にも届かなかったのが、4年後の18年には600億円超と6倍以上に成長しているのだから、伸び悩む国内外食業界の中では出色の成長企業だということは間違いない。ただ、その急速な成長が自社競合を引き起こしてしまったため、不採算店舗などの閉鎖によって体制を建て直すと、いうことのようであるが、そんな簡単な話でもなさそうだ。それはこのチェーンの既存店売上増減率の推移をみていくとなんとなく見えてくる。

 いきなり!ステーキ業態の既存店売上増減率を長期時系列に表示すると、次のようになる。

同社IR資料から筆者が作成

 16〜17年辺りではプラスだった既存店売上増減率は、店舗数が増えてくるに従って急激に低下。18年4月以降はマイナスに転じ、80%台に突入している。さらに19年に入ると70%台から60%台まで落ち込むことになった。一方でその間、100店舗ほどだった店舗数は500店舗程度まで増加を続けたのだから、チェーンとして収益が急速に悪化することは避けられない。

 普通に考えれば、既存店売上のマイナスが拡大している中で、出店を続けるなんておかしい、と思うだろう。しかし、先の図をもう一度見れば分かるが、18年12月期まではずっと「増収増益」だったのである。これが何を意味しているかといえば、店舗当たりの業績が悪化しているとしても、それを糊塗するほど大量に出店すれば、多店舗展開企業は増収増益という結果を維持できる、ということである。

 ただ、その間に不採算店が急速に積み上がるため、ある時点で急速な業績の悪化に見舞われることになった。いきなり!ステーキは、業績の悪化を出店によって先送り、そのツケが一気に顕在化したことで経営危機に陥ったのであり、その要因は経営判断の誤りであることは間違いないだろう。つまり、コロナ禍がなかったとしても結果は大して変わらなかったのである。

 外食業界においては、いきなり!ステーキのような事例は珍しいことではない。

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