外食各社がコロナ禍での対策に右往左往する中で、この会社はアフターコロナにおける自社の進むべき道を内外に示している。ウィズコロナ期は当面続き、外食業界はかつての6〜7割程度の売り上げで事業を維持していかねばならない状況が続く。だとすれば、資金力のない中小零細の飲食店の一定割合が、事業継続を断念することになるだろう。そうなれば、繁華街の優良立地にある小さい店舗スペースが空き、そうしたスペースへリーズナブルな条件で出店できるようになる。
こうした物件は、これまでの2階部分をワンフロア借りて、ということが多かった従来型の鳥貴族戦略では対応できない。「大倉家」立ち上げの背景には、コロナで空く立地で新しい小型店業態を立ち上げ、またチャレンジ精神にあふれた独立志向の社員の経営で取り組めば、小さい店でも勝ち残れる可能性は高い、という判断がありそうだ。コロナ禍で皆が苦しむこの時期に、こんな「攻め」を打ち出してくる鳥貴族は、これからも業界の風雲児であり続けるに違いない。
他の外食チェーンではサイゼリヤも、小型店業態を展開することを公表している。この業界きっての優良企業であるサイゼリヤも、2階立地に激安ながら満足できるメニューを用意してお客を引き込むという、2等立地の活用では定評のある企業であることは有名な話だ。サイゼリヤの小型店もアフターコロナの新たな競争環境を分析した上での、さらなる成長戦略の一環であることは間違いなかろう。
同じ外食業界という厳しい経営環境においても、生き残れる企業とそうでない企業がいるのだが、少なくとも生き残る企業の共通点は、危機下において資金確保を優先的に行い、とにかく持続可能な自社環境を整える、そして、残存者利益を最大限に追求するための施策を先駆けて打ち出す、ということのような気がする。
表に出ているかは別にして、アフターコロナで一気に勝ち抜こうとする企業は、今まさに、先を見据えた戦略を仕込んでいる。踏まえれば、中小零細事業者も残存者になるために、何としてでも事業継続を諦めないでほしい。資金をつないでいくためには、借金が増えてしまうかもしれないし、その恐怖感は計り知れないことかもしれない。ただ、借金がかさんだとしても、残存者には必ず返済できる可能性が残されている。コロナ過は一定時期後には必ず去ることだけは間違いないのであり、残存者利益は必ずあると信じて、耐えていただきたいと願うばかりである。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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