「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。
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新型コロナウイルスの影響によって、「3密を避ける」「非接触」が世の中のキーワードになった。これは「人と人が直接出会う」ことを利用者の目的としたマッチングサービスの産業を根底から揺るがしている。
各社が経営戦略の見直しを迫られる中、あえてオンラインによるコミュニケーションに商機を見いだし、ビジネスの機会を生み出そうとしているのがソーシャル系マッチングアプリ 「Tinder」だ。
Tinderはプラスとゴールドという2種類の有料メンバーシップを提供し、アプリには有料メンバーのみが利用できる機能を搭載することで収益を得ている。その収益の95%が有料会員からの会費で占められ、広告収入は5%未満だという。いわばユーザーに支えられたビジネスモデルだ。メンバーは有料の機能を活用することで人とのつながりの機会を得やすくなるわけだが、これまでその大きな目的はアプリを通して実際に人と出会い、つながることだと想定されてきた。
だが、コロナ禍でその状況も変わった。「非接触」文化に対応するべく、同社はリアルで人をつなぐことだけにとどまらないアプリの展開を模索している。9月には同アプリ内で、メンバーが自らの選択によって物語を楽しめるドラマ『SWIPE NIGHT』を3回にわたってリリースした。
また2019年のTinder単体での収益を見ると11.5億ドル(約1210億円)で、2020年第2四半期の直接収益は前年同期比15%増、有料会員は620万人まで増えている。Tinderの運営会社も含めたMatch Group全体の2020年第2四半期の決算を見ても、総売上高は前年同期比12%増の5億5545万ドル、営業利益は同14%増の1億9559万ドルと、コロナ禍にもかかわらず増収増益を達成している。
ウィズ・コロナ時代の訪れを前に、今後のビジネスをどう展開していこうとしているのか。前回のレポート【190カ国で3億4000万ダウンロード Tinderが仕掛けるウィズコロナ時代のマッチングビジネス】をさらに掘り下げるため、米Tinder本社の役員ジェニー・マケイブCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)にコロナ禍を含めたビジネス展開などについて話を聞いた。
――Tinderの運営会社も含めたMatch Group全体の20年第2四半期の決算ではコロナ禍にもかかわらず増収増益を達成しています。Tinderの収益の95%はユーザーへの課金システムからですが、今後もこの課金制が収益を増やす上で大きなポイントとなりますね。今後この課金制を拡張する予定はあるのでしょうか?
従来のプラス、ゴールド、ブーストという課金システムに加えて「プラチナム」というコースを新設する話が出ています。詳細はまだ決まっていませんが、マッチ数を増やし、より会話の場を提供する形になると思います。
ただ、有料会員に注力するというよりは、無料会員も含めたメンバー全員が使える機能の方に力を入れたいと考えています。日常的に使ってもらう、頻繁に使ってもらうことによってTinderをさらに広められるからです。Tinderのビジョンである「Great Place for everyone」、みんなが楽しく使ってもらいたい。Tinderの経験値が上がることこそが価値向上につながると思っています。
――マッチングアプリは世界にも数多くあり、日本でも乱立しています。他社と比較したときにTinderの強みはどこにあるのでしょうか? いかにして差別化を図ってきたのですか?
Tinderの始まりや背景を知ってもらうと、当社の強みや他社との差別化を理解してもらえると思います。Tinderは2012年に米国の大学で誕生しました。当時、大学生の多くは実家から出て大学のある土地に移り住み、そこから通います。当然これまでに出会ったことのなかった人たちと出会うことになり、それまでよりも開放的で自己発見できる環境になります。Tinderはそれをサポートするプラットフォームとなるべく生まれました。
設立から2年目までは、1日1スワイプ(編注:ユーザーが相手の画像を見て右に選択するか、左に選択するかを選ぶ行為)あれば良い方だったのですが、現在は1日10億スワイプまであっという間に伸びました。需要がなければそこまでは一気に広がらないはずですから、そこに大きな需要があったと私たちは理解しています。
大学入学のときはだいたい18歳で、卒業するころには22、23歳ですね。その年齢層がTinderの目指すターゲットの軸になっている「Z世代」です。(ユーザーである)メンバーの半数が25歳以下となっています。
Tinderはこのように若い世代をターゲットとしていて特にZ世代に対する強みを持っています。彼らはまだ成人して間もないので、これから自分の可能性や人脈を広げていきたいと考えています。また、Tinderは結婚を目的としたアプリという成り立ちではないので、そこが他のマッチングアプリとは差別化がなされているところだと思います。Z世代に寄り添ったアプリだと考えています。
――米国を始まりとして、アプリをここまで世界中に広められた要因は何だと分析していますか? 例えば、ユーザーインタフェース(UI)の使いやすさなのか? それともメンバー同士の出会いやすさなのか?
使っていて非常に楽しく、簡単で、直感で人とのつがなりができるからだと思います。スピード感もありますね。しかも、1人だけではなく、複数の人と出会えるというのも理由の1つだと思います。
――そもそも右にスワイプをする、左にスワイプをするという手法の成り立ちとは何だったのでしょうか。なぜこの仕組みを作ったのですか。
Tinderといえばスワイプですが、スワイプの仕組みは最初からありました。Tinderが誕生したときにはすでに出会い系のサイトは数多くありました。ですが、その内容はだいたい50くらいの質問があり、それに答えてから出会うというものだったのです。
Tinderは若者に向けて画像を右に選択するか、左に選択するかで、出会いにつながります。結婚が目的のアプリではないので、マッチした後、どう広げていくのかはメンバー次第なのです。
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