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離職を防ぐ! 中小企業の「副業・兼業」導入ガイド一律禁止はムリ(3/3 ページ)

» 2020年10月26日 07時00分 公開
[企業実務]
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 まず、副業は事前の届出制とすることをお勧めします。なぜなら、先述のように副業希望者は増加傾向にあり、副業を一律禁止とすると、社員が隠れて行う危険性があるからです。

 仮に就業規則で副業禁止規定を置き、これに違反したときの懲戒処分規定を設けていたとしても、実態に即して判断したとき、副業が後述する(1)〜(4)の4つの基準に抵触しないのであれば、その処分は司法の場で無効とされる危険性があります。就業規則に規定してあればよいということではない点にも留意が必要です。従って、企業にとって、副業の事実を知らされないことは、労務リスクでしかありません。

 届出(副業申請書)には、副業の業種や事業内容、副業にどの程度の日数・就労時間を見込んでいるか、競業に当たらないかどうか、などのほか、副業を行う理由や業務に支障が生じない理由等を記して提出してもらいます(図表3)。

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 この内容を基に、(1)労務提供上の支障がないか、(2)企業秘密が漏えいするおそれがないか、(3)企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為に該当しないか、(4)競業により企業の利益を害するおそれがないか、の4点を基準に自社の実態を踏まえ、検討していきます。このとき、どのような手順で進めるのか、あらかじめ公表しておくと混乱が起きにくくなります。最後に誓約書を提出してもらいます(図表4)。

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 その後の管理は、当初の届出内容の枠から外れたものとなっていないか、とりわけ副業に要する就業時間等について、社員の健康面に留意した継続的管理が必要となります。

 このように、届出→検討→その後の管理、といったいずれの場面においても、労使双方の十分な話合いのなかで実施することが肝要です。

 先に挙げた企業のデメリットも、定期的・継続的コミュニケーションが図られていれば、解決できるものが多いと考えられます。

 また、労使のコミュニケーションを通じて、副業で得た知見から自社に生かせそうな提案をしてもらう仕組みづくりを忘れずに整備しておきましょう。これがイノベーションが生まれるきっかけとなる可能性があるからです。

 以上をまとめると、本業における会社の経営決定権限を有している者や、極めて特別な職に就いている者が、副業でも同様の職に就く等の特殊事情がない限り、基本的には副業を認めることを前提とした労務管理体制を整える必要があることが分かります。

 副業解禁は、企業だけが煩雑な管理を求められ、一方的に不利な立場に立たされるように映るかもしれません。

 しかし、企業が積極的に副業を解禁する姿勢を示すことは、人材採用をはじめ、自社の在籍する社員に対し、時代に即した新しい働き方を模索する会社であることを訴求できます。

 このコロナ禍は私たちの生活を一変させましたが、今後も経験したことがないような事態が起こるかもしれません。こうした事態に備えるために必要なのは、既存事業ではなかった知見を吸収し、フル活用する変化適応力です。

 副業解禁は、この力を鍛える場となる可能性を秘めており、今後の稼ぐ力の源泉になるかもしれないのです。

著者紹介:佐藤正欣

SRC・総合労務センター 副所長 特定社会保険労務士

未来のオンリーワン企業支援のため「大企業のマネをしない中小企業独自の労務管理」が理念。事務手続きと並行し、経営・労務相談、就業規則策定等、セミナー、社員研修も多数手掛けている。

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