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「通勤」は減っていく? 東急の6700人アンケートから読み解く、これからの鉄道需要杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2020年11月06日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

不動産の流動は少ない

・項目5「転居の意向」 9割以上が「転居しない」

 在宅勤務の悩みどころは自宅の作業スペース不足だ。部屋数の多い住まいへの転居傾向があるという見方もある。しかし東急のアンケート結果では93%が「転居しない/考えていない」と回答した。ここには、在宅勤務は一過性で今後は元に戻ると考える人、自宅が在宅勤務に対応できる人、自宅は在宅勤務に適さないけれど、最寄りのサテライトオフィスを契約すれば対応できる人が含まれる。リモートワークが不動産業界に与える影響は少ない。

 不動産業界では東急沿線というブランド力を高く評価している。東急沿線の住宅環境の満足度が高いとも言えそうだけど、他社の同様の調査を見ないとなんとも言えない。あるいは持ち家率が高く、不動産の流動性が低いかもしれない。

田園都市線は東京メトロ半蔵門線と直通運転を実施している

 「コロナ禍が原因で転居した/転居を考えている」人は全体の6.2%となった。転居志向は少ない。少数派の転居意向者のなかで、横浜市・川崎市を選んだ人は、引き続き東急沿線に住み替えたい人が多いと思う。また、東京23区でも世田谷区・渋谷区・品川区・大田区は東急沿線だ。東急沿線を離れる意向がある人は、6.2%のなかで約6割。アンケート回答者全体の約3.8%になる。つまり、ほとんどの人々が転居を検討せず、転居を検討する人でも東急電鉄沿線を選ぶと考えられる。これは「通勤需要は減らない」という考察を裏付ける。

大井町線の夕夜間は、急行列車の一部で指定席「Qシート」を設置。田園都市線に直通する

 東急によると「渋谷駅周辺のオフィス需要は低下しておりません。一方、当社の法人企業向け会員制サテライトオフィス事業『NewWork』は郊外店舗が好調です。新規入会希望の問合せ数も増加傾向にあります」とのこと。通勤需要は固く、一方で通勤しなくなった人にもサテライトオフィスを提供する。これで沿線価値はますます高まるだろう。

 田園都市線沿線在住の私からみると、むしろコロナ渦以前の通勤状況が過熱気味で、今後はほどよい通勤需要になるのでは、という期待もある。

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