クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

SKYACTIV-Xアップデートの2つの意味池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2020年11月16日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

アップデートの中身

 さて、SKYACTIV-Xはバージョンアップで何をやったのかをそろそろ説明しなくてはならないだろう。今回のバージョンアップをマツダでは「スピリット1.1」と名付けた。言うまでもなく初期バージョンは「スピリット1.0」となる。一桁をハードウェア、小数点以下をソフトウェアバージョンで表現する。マツダらしいといえばらしいが、スピリット云々は少々暑苦しいネーミングである。そこまで作り手の感情を込めなくてもいいのではないかと思う。手編みのセーターみたいで重い。

 改良の内容についても触れておこう。基本的には、EGR(排気再循環)と新気と燃料のミクスチャーの緻密制御である。燃焼速度に対して、新気と燃料はアクセル、EGRはブレーキの役割を果たす。つまりノッキング制御の初手はEGRであり、それで手に負えない領域に入ると初めて点火を遅角する。そのために各シリンダーに設置した圧力センサーで、圧力波形をチェックし、その波形から燃焼状態を割り出して、ミクスチャーの制御を行う。何がどのくらい入っているのかがより精密に分かるようになった。

 この分析精度が向上したのがスピリット1.1のポイントだ。遅角すると予圧縮が下がってから点火するため熱効率が激減する。EGRで燃焼速度を抑制すれば、ノッキングを避けながら熱効率の高い圧縮比を保って点火できる。特にSKYACTIV-Xはスーパーチャージャー付きなので、新気の量を能動的にコントロールでき、それとシンクロさせて直噴インジェクターで燃料もレスポンス良く追加できるから、前述のEGRと併せて燃焼速度を速くも遅くもできるのだ。蛇足だが、圧縮着火では火炎伝播に頼らないため薄い混合気に安定的に着火できる。SKYACTIV-Xが期待されているのは、これによる巡航領域のリーンバーンと、すでに説明した点火タイミングの進角状態維持の2つである。

マルチスクリーンは、切り替えによってSPCCIの作動業況をモニターできる。走行中の9割以上で圧縮着火燃焼が行われていることが分かる

 特に過渡期においてトルクの付き方のリニアリティを向上させることを、強く意識して改良が行われている。もっといえば、アクセルの踏み込み速度の速い領域でのトルク増加の反応を速くしている。エンジン開発のボスが言った、「そういう過渡特性を磨いていったら結果的に馬力が上がっちゃいました」という言葉が、その改良の中身をよく表している。

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