クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

SKYACTIV-Xアップデートの2つの意味池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2020年11月16日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

育成系エンジン

 面白いのは、これを既納客にも適用する動きだ。マツダでは、すでにSKYACTIV-X搭載車を購入したユーザーに対して、ソフトウェアのアップデートを無償で行うことを検討している。ソフトウェアのアップデートによる機能向上はすでにテスラなどが行っているが、これは本来日本ではグレーゾーンであった。

 クルマは国交省の審査を受けて、型式認定が発行される。つまり届け出時になかった機能を後付けするということは審査外の機能が盛り込まれてしまうということで、いろいろと都合が悪い。しかもこれが法規で明確に定められていればまだしも、多くが行政指導によって行われてきた。行政指導は当然のごとく国外には及ばないので、海外メーカーはお咎(とが)めなしというダブルスタンダードが横行してきたわけである。

 これが日本のメーカーはソフトウェアアップデートで遅れているという批判につながってきたのだが、今や世界的競争に際して「役所が足を引っ張っている」と言われていることに役所も気付いており、その批判をだいぶ気にするようになってきた。

 その結果、国交省は行政指導を緩和する方向に乗り出しており、むしろ世界との競争にポジティブであるといわれたい雰囲気が出てきている。今回のマツダのソフトウェアアップデートはまさにその第一弾となる可能性が高く、それがうまく行けば、日本のメーカーの足かせがひとつ外れることになる。ということで読者諸氏も、是非役所の前向きな改革を褒めて、さらに規制緩和が進む方向へと後押しして欲しいと思う次第である。

 ここで筆者が思うのは、もしこうしたソフトウェアアップデートが可能になったら、クルマの楽しみ方が大きく変わるかもしれないということだ。つい先日iPhoneのOSがiOS13から14にアップデートされたが、ネットでは一晩中その検証で盛り上がりを見せていた。例えばスピリット1.1へとアップデートしたユーザーがその感想をネットでコミュニケーションする時代になったとしたら、今までにない自動車の楽しみ方になるだろう。初期型を買った人が馬鹿を見ないだけでなく、そのクルマを育成して楽しむことができる。

 筆者のような職業ですら、年次改良の度にそれを全部試しているかといえば、そんなことはない。そういうクルマの進化の過程をオーナーが逐次楽しんでいけることの意味は大きいだろう。

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