「中小企業は大企業に搾取されている」という説は、本当かスピン経済の歩き方(1/6 ページ)

» 2020年12月08日 09時37分 公開
[窪田順生ITmedia]

 成長戦略会議が、中小企業の規模拡大を支援していくという実行計画の方針を固めた。日本では50年以上、小さな会社が潰れないように補助金などで支える「中小企業保護政策」が続いてきたが、買収や合併で会社の規模を大きくしていく事業者を応援する政策へと大きく方向転換していくというのだ。

 と聞くと、脊髄反射で「会社は大きくなればいいというものではない!」「小さくて世界に誇る技術があるのが日本の中小企業の強みだ!」とかみつきたくなる人もいらっしゃるだろうが、目下、日本社会の課題になっている「生産性向上」は、技術や根性で成し遂げられるようなものではなく、労働者1人が生み出す付加価値を上げていくことなので、「賃金」が大きな影響を及ぼすことが分かっている。

中小企業は大企業に搾取されているのか(画像はイメージ)

 一般的に、社長1人で社員3人みたいな零細企業より、社員50人の中規模企業のほうが仕事の幅が広がって売り上げも上がるので、社員に払える賃金が高くなる。これが零細企業よりも中規模企業、中規模企業よりも大企業の生産性が高くなっている本質的な理由だ。

 そのような意味では、今回の中小企業のM&Aを促すような支援策は、日本社会の生産性向上につながっていく喜ばしい話ではあるが、これっぽっちの支援ではまったく物足りないとおっしゃる人たちもかなりいる。どんなに中小企業の規模を大きくしたところで、下請けとして大企業に搾取される不平等な構造を変えないことには、生産性など上がるわけがないというのだ。

 なぜそんな考え方になるのかというと、このような主張をされる方は総じて、「日本の中小企業の生産性は低いどころかむしろ高い」と考えているからだ。社員数名の零細企業でも、実は大企業に負けないほど高い生産性がある。ただ、下請けという弱い立場で値下げやオーバーワークを強いられているので、「たまたま生産性が低いように見えるだけ」というのだ。

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