では、この2つの動かし難い事実の前で、「中小企業の生産性が低いのは大企業が搾取している」という主張がすんなりと頭に入ってくるだろうか。
かなりビミョーではないか。
もちろん、「5%というのはあくまで全体の話であって、下請けが多いIT業界や製造業などが搾取されているのだ!」という指摘もあるだろう。ただ、そのように業種別のデータを見ていくと、新たな矛盾が次から次へとでてきてしまうのだ。
「業種別に見た、受託事業者の割合」という図を見ると、「情報通信業」が最も多く36.2%、次いで「製造業」が17.4%、「運輸業、郵便業」が15.2%となっている。「下請けが多い」とされるIT業界はさすがに3分の1を超えているが、製造業で下請け状態にあるのは2割にも満たないのである。
一方で、ほとんど下請け状態がないのは「卸売業」(3.1%)や「小売業」(1%)である。コロナ禍で苦境に立たされている「宿泊業、飲食サービス業」にいたっては0.1%である。
「中小企業の生産性が低いのは大企業が搾取している」というのが事実ならば、下請けの割合が高い業種ほど生産性が低くて、下請け割合が低い業種は生産性が高いはずだが、現実はカオスで、むしろ逆となっていることも多い。
「労働生産性と労働構成比」というデータを見ると、大企業から搾取されていない卸売業は、中小企業の中で最も生産性が高いが、その次は36.2%が大企業から搾取されているはずの情報通信である。15.2%が下請けの運輸業・郵便業は4番目だ。
一方、17.4%が下請け状態にある製造業は7番目。確かに「搾取されているのでは?」と思う部分もあるが、ほとんど誰からも搾取されようがない小売業や、宿泊業、飲食サービス業は、その製造業よりもはるかに生産性が低い。
つまり、この調査から浮かび上がる事実は1つ。「大企業から搾取」うんぬんというのは、生産性の低い、高いという問題とはまったく関係ないということである。
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